キングスマン:ゴールデン・サークル (監督:マシュー・ボーン 2017年イギリス映画)
スパイ・アクション映画『キングスマン』の続編登場
2014年に公開された映画『キングスマン』は『007』や『ミッション・インポッシブル』を髣髴させるシリアスなスパイ・アクションに『ジョニー・イングリッシュ』や『ゲット・スマート』のコミカルなおとぼけスパイテイストを加味した娯楽作品だった。同時に、イギリス独特のスタイリッシュさをカリカチュアライズして描き、さらに新米スパイである主人公のビルドゥングス・ロマンとしても成立している作品だった。(この作品のレヴューはこちら ↓ で)
その続編となるのが今回紹介する『キングスマン:ゴールデン・サークル』である。今作では英国の諜報組織キングスマンが謎の組織ゴールデン・サークルに壊滅させられ、からくも生き残った主人公らがアメリカの諜報組織ステイツマンと手を組み、ゴールデン・サークルの謀略を暴く、というもの。イギリスとアメリカの微妙なカルチャー・ギャップを小ネタにしながら、前作譲りのスピーディーなハイパーアクション、監督マシュー・ボーン独特のエグ味たっぷりなブラックユーモア、さらに前作で死んだあの人がムムム!だったり、カメオ出演だと思ってたのに出ずっぱりなばかりか相当活躍しまくるあの超有名ロックシンガーに個人的に狂喜したりとか、見所満載で大いに楽しめた。
イギリス人エスタブリッシュメントへの皮肉
このように非常に優れた娯楽作品として完成している『キングスマン:ゴールデン・サークル』だが、よく注視して観るなら、その背景に細かな皮肉が散りばめられているのが透けて見える気はしないだろうか。
映画『キングスマン』はそもそもがイギリスのエスタブリッシュメントへの皮肉で成り立っている。サヴィル・ロウのスーツをパリッと着こなしたキングスマンはエレガントでダンディーなのか。いや違う。あれは高級紳士服を着ているようなエスタブリッシュメント連中をカリカチュアし皮肉っているのだ。主人公エグジーはもともとが労働者階級であり、そんな彼がエスタブリッシュメント組織「キングスマン」に仲間入りし、上流階級を気取って活躍するのが可笑しい物語なのだ。例えばハリーのスーツの着こなしは堂に入っているが、背丈の低いエグジーのスーツ姿は借り着を着せられたオコチャマにしか見えない。その滑稽なスーツ姿がカリカチュアなのだ。
単純で能天気でガサツな田舎者のアメリカ人
そして今作における皮肉は舞台となるアメリカにも及ぶ。諜報組織ステイツマンの名称はキングスマンがユナイテッド・キングダム由来であるようにユナイテッド・ステイツ由来なのだろうが、キングとステイツでは格に差がある。ステイツマンはバーボン醸造所を隠れ蓑にしているが、同じウイスキーでもイギリスのスコッチとアメリカのバーボンとではどうしてもバーボンは落ちる酒だ。
そしてステイツマン・メンバーのあまりにベタなアメリカ人振り。チャニング・テイタムやジェフ・ブリッジスといったいかにもアメリカンな配役(逆にキングスマンの配役は全員イギリス人)。黒人(ハーフ)俳優ハル・ベリーと南米出身のペドロ・パスカルが配役されている部分にも混成国家アメリカを象徴させている。ペドロ・パスカル演じるウイスキーの得意技が投げ縄に鞭。要するにカウボーイ。これらはあえて単純化したアメリカ人像ではあるが、そこに通底するのは単純で能天気でガサツな田舎者といったアメリカ人のイメージだ。
アメリカ人は"悪役"
さらに今回の最大の悪役はアメリカ人のポピー(ジュリアン・ムーア)。前作でも悪役は愚劣なアメリカ人リッチモンドであり、それをイギリス人諜報員が颯爽と退けるという物語だった。ポピーにしてもリッチモンドにしてもデカイ仕事で一山当てた成金長者だ。アメリカ人の成金が金持ったばかりに狂った計画を実行する、というのが『キングスマン』における悪役なのだ。
ポピーの組織ゴールデン・サークルのアジトは安っぽくけばけばしいアメリカン・ダイナーを模しているが、この趣味の悪さもアメリカへの皮肉だろう。そして今作に登場する合衆国大統領の蒙昧ぶりときたら、これはもう皮肉を通り越して悪意すら感じる。ちなみに前作における暗殺者ガゼルはイギリスが歴史を通して嫌っているフランスの出身だ。このガゼルは人格の欠落した異形として登場する。これも皮肉だ。
これらにはオレのこじつけも混じっているかもしれないが、しかし監督マシュー・ボーンが、これも英国出身者らしい皮肉に塗れた物語に成り立たせていることは間違いないのではないかと思う。というわけで前作においてエスタブリッシュメントを大量殺戮したマシュー・ボーンが、今度はイギリス人の目線からアメリカ人を虚仮にしまくっていた、というのが今作の構造なのではないだろうか。ああ、そういえば大活躍したあのロック・スターも、イギリス人なんだよね。