監督マシュー・ボーンの手癖とAppleTV+の映画製作姿勢が上手く噛み合った娯楽作/映画『ARGYLLE/アーガイル』

ARGYLLE/アーガイル (監督:マシュー・ボーン 2024年アメリカ・イギリス映画)

スパイ小説作家の小説があまりに現実化し過ぎるので本物のスパイに目を付けられてしまう!?というアクション・コメディ映画『ARGYLLE/アーガイル』です。監督は「キングスマン」シリーズのマシュー・ボーンですからスパイものはお手の物でしょう。主人公となる作家エリーをブライス・ダラス・ハワード、彼女に近づくスパイ・エイダンをサム・ロックウェルが演じます。他にヘンリー・カビル、ジョン・シナサミュエル・L・ジャクソン、デュア・リパ、ソフィア・ブテラが共演を務めています。

《物語》謎のスパイ組織の正体に迫る凄腕エージェント・アーガイルの活躍を描いたベストセラー小説「アーガイル」の作者エリー・コンウェイは、愛猫アルフィーと一緒にのんびり過ごす時間を愛する平和主義者。新作の準備を進めている彼女は、アルフィーを連れて列車で移動中に謎の男たちに命を狙われ、エイダンと名乗るスパイに助けられる。やがて、エリーの小説が偶然にも現実のスパイ組織の行動を言い当てていたことが判明。エリーの空想のはずだった世界と、命を狙われる現実との境界線が曖昧になっていくなか、敵の一歩先を行くべく世界中を駆け巡るエリーだったが……。

ARGYLLE アーガイル : 作品情報 - 映画.com

『ダーク・ハーフ』、『シークレット・ウィンドウ』、『ルビー・スパークス』、『変態小説家』など、作家や脚本家が主人公となり、その生み出された作品が現実を侵食してしまう、という映画は結構製作されており、これだけで一つのジャンルだと言ってもいいぐらいです。こういった作品のシナリオなり原作なりを書いた作家自体が、「自分の書いた物語が現実になったらどうなってしまうのだろう?」と妄想することが多々あるからなのでしょう。

映画『ARGYLLE/アーガイル』では、主人公作家の生み出した作品のストーリーが、現実の諜報活動とあまりに酷似していることから、諜報組織に目を付けられてしまうという所から物語が始まります。これなどはスパイ映画『コンドル』の物語運びと非常によく似ていますね。しかし『コンドル』がおそろしくシリアスな作品だったのと比べ、『ARGYLLE/アーガイル』はあくまでコメディタッチに進行してゆきます。主人公作家エリーの類稀な想像力を巡って、二つの敵対する諜報組織がエリーと接触を試みます。

ここで展開するスパイ・アクションは、マシュー・ボーン監督お得意の、荒唐無稽でどことなくブラックで、少々「やり過ぎ」感があるのも否めない非常に派手なものなんですね。マシュー・ボーン監督の大ヒット作「キングスマン」シリーズにおけるブラックコメディ展開は賛否両論を呼びましたが、それと同等に「そこまでやるか!?」と思わせるアクションが畳み掛けてくるんですよ。「キングスマン」のグロテスクさは無いにせよ、観る人によっては「お口ポカーン」な状態になってしまうかもしれなせん。オレは「いやー、馬鹿だなあ!」と思いながら十分楽しみましたが。

「作家の作品が現実とシンクロする」というシナリオは、先に挙げたようにそれほど斬新なものではないし、その後のどんでん返しも十分想像がついてしまうのですが、監督の力技でそれを乗り切ってしまうんですね。こういった「ありふれたシナリオをきっちり映画化することで十分視聴に耐えるものにする」といった製作の在り方は、この作品がAppleTV+が劇場配給したものである部分に負う部分が大きいと思うんですよ。

AppleTV+のオリジナル配信映画を幾つか視聴したことがありますが、例えば『ゴーステッド Ghosted』にせよ『ファミリープラン』にせよ、シナリオ自体はありふれたもので特に斬新な要素は存在しないんですね。しかし非常にしっかりとした作りとなっているせいで楽しめる作品に仕上がっているんです。

この「AppleTV+らしさ」が『ARGYLLE/アーガイル』からも感じることができて、それは十分に素晴らしい成果を上げているように感じました。映画『ARGYLLE/アーガイル』は、AppleTV+の映画製作姿勢が、マシュー・ボーン監督の癖のある作風を上手くコントロールしながら、いい具合に中庸に仕上がった娯楽作だという事ができるでしょう。