戦争の悲惨さを正面から描いた前日譚/映画『キングスマン:ファースト・エージェント』

キングスマン:ファースト・エージェント(監督:マシュー・ボーン 2021年イギリス・アメリカ映画)

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マシュー・ボーン監督の「キングスマン」シリーズは1作目2作目ともとても楽しんだが、手放しで好きな作品かと問われると少々言葉に詰まる部分がある。それはこのシリーズの持つ悪趣味極まりない「エグみ」がオレにとってはスレスレ過ぎて、「うわあやっちゃねえ」とニヤリと笑いはするものの、「もっともっと!もっと過激なヤツお願い!」とまでは思わないのである。

さて「キングスマン」シリーズ3作目『キングスマン:ファースト・エージェント』は、これまでの2作の前日譚という事になる。秘密結社「キングスマン」がどのように設立されたのか、第1次世界大戦の頃まで遡って描くことになるのだ。

表向きは高級紳士服テーラーだが実は世界最強のスパイ組織という「キングスマン」。国家に属さない秘密結社である彼らの最初の任務は、世界大戦を終わらせることだった。1914年、世界大戦を裏でひそかに操る闇の組織に対し、英国貴族のオックスフォード公と息子のコンラッドが立ち向かう。人類破滅へのカウントダウンが迫るなか、彼らは仲間たちとともに闇の組織を打倒し、戦争を止めるために奔走する。キングスマン ファースト・エージェント : 作品情報 - 映画.com

『ファースト・エージェント』は第1次世界大戦を勃発させた闇の組織と、その陰謀を叩き潰すために奔走する英国貴族オックスフォード公(レイフ・ファインズ)とその仲間たちの戦いを描くものである。物語は史実を下書きに、怪僧ラスプーチン、女スパイ:マタ・ハリセルビアのテロリスト:ガヴリロ・プリンツィプなど実在の人物を登場させ、フィクショナブルに話を膨らませたスパイ・ストーリーとして完成している。

この『ファースト・エージェント』で徹底的に描かれるのは「戦争の悲惨さとその悲劇」だ。映画はヨーロッパ全土を死と破壊で覆った第1次世界大戦の悲惨さをこれでもかと描き、主人公オックスフォード公を見舞う愛する者たちの死という悲劇を情け容赦なく突き付ける。胸のすくアクションや目を奪うスペクタクルは存在するものの、「キングスマン」シリーズに存在したハチャメチャな乱調は影を潜め、暗鬱さと苦悶とが物語全体を覆うことになる。

キングスマン」らしからぬこういった展開から『ファースト・エージェント』はコンセプト的な後退であると揶揄する批判もあるが、それは「戦いを嫌う男」オックスフォード公が「どの国にも属さない中立の諜報機関キングスマン」を設立するに至った理由に強力な説得力を持たせるためだったのだろう。だからこそ『ファースト・エージェント』の物語は1、2作目の狂騒をあえて廃し、その悲嘆と絶望の根源である「戦争の悲惨さとその悲劇」をオチャラケなしで正面から描く必要があったのだろう。

こういった物語展開はマシュー・ボーン監督の真摯さの発露ともとれるのではないか。確かにハチャメチャさは鳴りを潜めてはいるが、「キングスマンとはなんであるのか」をきっちり説明しようとしたその語り口調からは、これまでのシリーズとはまた違うキングスマンの面白さを導き出していたのではないだろうか。実は個人的には1,2作目よりも好きな物語であった。