最近読んだコミック

■ダーリンは70歳 / 西原理恵子

西原理恵子高須クリニック院長・高須克弥のラブラブぶりは既に知るところだが、遂に漫画にまでしてしもうたのか。天下の高須センセイが中学生みたいな描き方されているのも可笑しいが(というより高須センセイに限らず男なんてみんな中学生みたいなもんだ)、逆にそれが高須センセイの人間味としてこちらに伝わってくる部分が、これを描く西原の愛ゆえなのだろう。暫く前までの子育て漫画で西原なりの平凡な幸せを追求していてそこが若干退屈にも感じていたのだが、この作品では同じように幸福を追求していつつ、そこに西原ならではの「凄み」が加わるのは、それが高須センセイが作中言うとおりに「僕たちには時間がない」という部分だろう。高須センセイは今70歳、いくら長生きしたとしてもあと10年20年、ひょっとしても30年。そして10年20年というのは年老いた者にとってあっという間の年月に過ぎないのだ。これは現在53歳のオレにだって如実に感じる事実なのだ。この作品には溢れんばかりの愛と笑いが込められているけれども、それはタイムリミット付きの愛であり幸福であり、そして実のところ、生けとし生けるものにとって全ての愛はタイムリミット付きなのだ。だからこそ、今この瞬間に精一杯愛しきろうとする、高須センセイの優しさが、同じ愛する者のいるオレには心に沁みるのだ。だからこそ、この物語は切ないのだ。

岡崎に捧ぐ(2) / 山本さほ

岡崎に捧ぐ 2 (コミックス単行本)

岡崎に捧ぐ 2 (コミックス単行本)

前巻が「小学生篇」だった『岡崎に捧ぐ』は今作で「中学生篇」に突入。こんな具合にサクッと時代を先に進め、「小学生篇」だけで長々と引っ張ったりしないところに作者・山本の非凡さが伺えるが、さらに非凡に感じたのは個々のエピソードも決して引っ張らない部分だ。例えば作品の中でこの主人公の恋が語られたりはするけれども、前後編とはいえ恋のなれそめから卒業式での玉砕まであっという間に語られて終わりになる。もう一人変な友達も現れるがそれもやはり引っ張らない。結局どれも「ひとつのエピソード」ではあっても、やはり中心は親友の岡崎なのだ。このあれもこれもと欲張らない淡白さがいい。そして十分面白い。次巻はあっという間に「高校生篇」らしく、これも楽しみだ。

■レベレーション(啓示)(1) / 山岸涼子

山岸涼子の描くジャンヌ・ダルク物語、という段階であの神がかりの革命女子が神経症的非現実で描かれるのがあからさまなのだが、読んでみて確かに十分に狂った物語で、いやーやっぱり山岸涼子はやめられまへんなー、と膝を打つ(打たないけけど)オレであった。山岸はこの作品で主人公ジャンヌが神経症である、と最初から断っておきつつ様々な怪異を見せてゆく、という確信犯的な描き方をする。そして読んでいるこちらも「いやこれは主人公の幻覚なのだ」と知っていつつありえない世界へと持って行かれる。この異常心理の追体験に凄みがある。

プラチナエンド(1) / 小畑健, 大場つぐみ

デスノート』『バクマン。』コンビによる新作。設定から『デスノート』の天使版を思わせるが、"敵対する12人の天使"なんてーのが現れて、お話は今後そっちの方向に向かうのでありましょう。しかし面白いとか面白くないとかいう以前に、物語設定やキャラや絵柄や展開に「人気少年漫画のありうべきフォーマット」的なものが随所に見られ、「高い興行収益を挙げられるべきシナリオのフォーマット」に基づいて製作されたハリウッド映画を見ているような産業臭が濃厚で、その部分である種感心させられた。

ヴィンランド・サガ(17) / 幸村誠

北欧が舞台なのに登場人物の心情の在り方が実に東南アジアしている部分がちぐはぐに感じてイマイチ面白いんだが面白くないんだか分からないまま読んでいる『ヴィンランド・サガ』、この巻で明かされるボウガン・スナイパーの女の出自がなかなかにハードボイルドで、いやこれならオレ、ノレるわ、とちょっと見直した巻であった。この女主人公にした方が面白いのに。