■Project X (監督:ニマ・ヌリザデ 2012年アメリカ映画)
外国映画、とりわけアメリカ映画を観ていて、よくわかんない文化が幾つかある。例えばプロム。高校の学年最後に開かれるフォーマルなダンス・パーティーで、このプロムを題材にした映画は幾つも作られているが*1、日本の素朴かつドン臭い田舎の高校を卒業した身としては、何度このプロムを題材にした映画を観ても、なんだかピンと来ない。まあオレの高校時代の体験でこれに一番近いのは学校祭で行われる校内フォーク・ダンスぐらいである。田舎の山猿の如き高校生たちにとって、このフォーク・ダンスでなんとか意中の異性と踊るのが、密かな願望だったりしたのである。何の音楽で踊るって?そんなのオクラホマ・ミキサーとマイム・マイムに決まってるじゃないか!?
もうひとつ、よく分からないのが、親が不在の家に大勢の友人たちを集めて、音楽ガンガン流しながら踊りぃの酒飲みぃの異性とイチャイチャしぃのする、といったダンス・パーティーだ。いや、やってることはよく分かるんだが、これを、部屋数たっぷりの一軒家で、その一軒家にひしめかんばかりの人数が集まって、大音量で音楽を流しながら夜を徹して踊り狂う、というのが、ウサギ小屋並みの住居しか知らず、友人など片手の指の数以上作ったことが無く、踊り狂えるほど部屋で大音量の音楽を流したことの無い平たい顔の日本人であるオレにとって、既にありえないことなのである。まあ結局東西の住宅事情の違い、ということなんだろうが、それにしても、パーティーが出来るほどの人数が一つ家に集まる、集められる、というのも、やっぱり良く分からないのである。
トッド・フィリップス、ジョエル・シルバーらを製作陣に加え、新進気鋭のPVアーチスト、ニマ・ヌリザデを監督に据えて製作された『Project X』はこんな、高校生のホーム・パーティーを題材に、そのパーティーが知らないうちにどんどん恐るべき規模になり最終的に収拾が付かないほどのパニック的な状況になる、という映画だ。主人公はイケてない高校生活を過ごす少年で、誕生日のある日数少ない友人同士で集まって親のいない家でバースデーパーティーを開こうとするんだが、悪知恵の働く友人の余計なお世話とも言える計略で家にはどんどん人が押し寄せ、主人公少年の家はあたかもクラブと化したかのごとく大音量のダンス・ミュージックの中浴びるように酒を飲む男女が踊り狂い常軌を逸した乱痴気騒ぎを繰り広げ、そしてそれはいつしかコントロールを失ったカオス・フィールドと化してゆく、という物語なのである。
最初はこの映画、トッド・フィリップス絡みという事からなんとなくスラップスティックな笑えるコメディを期待していたのだが、そのキッツイ展開には、笑うどころか顔が引き攣り、どんどんドン引きしてゆく自分がいたのである。いや、考えてみれば、トッド・フィリップスという監督は、こういったシャレにならないキッツイ展開を好むある種サディスティックでヒステリックな監督だということを忘れていたのだ。だいたいオレぐらいの年になっちゃうと、パーティーで乱痴気騒ぎするワカモノ達よりも、家を破壊される親の心情のほうに共感してしまうのである。そもそも、主人公の少年だって、最初は想像を遥かに超えた人数の集まりとそのハチャメチャな振る舞いにオロオロしていたではないか。しかしだ。戸惑う主人公が酒やらクスリやら女子の色香やらでだんだんいろんなことがどうでもよくなってきて羽目を外して来るあたりから、観ているこっちも段々このメチャクチャさが愉快になってくる。そう、登場人物たちと一緒に脳がとろけ出してくるのだ。
しかしこの映画はそれで終わりではない。盛り上がりまくったパーティーはそのテンションを際限無くエスカレートさせ、その狂騒は次第に狂気とカオスの匂いを帯びてゆき、そして…という唖然呆然のクライマックスが待っている。これがヤヴァイ。相当ヤヴァイ。観ていて「ちょっと待てちょっと待てアアアアアッ!!!」とか「ありえねーって!これはありえねーって!」と思わず叫んでしまったぐらいだが、しかし"恐怖"というのとはまた違う。狂っていて、危なくて、多分一歩間違うと死ぬのだが、それでも頭にグチュグチュと快楽物質が染み出している、天辺突き抜けたハイな感じ。こんな映画観たことない、というか、こんな映画をなんというジャンルで呼べばいいのか分からない。昔"ヴァーチャル・ドラッグ”とかいうしょーもないCG映像垂れ流しのビデオがあったが、この映画は、ある意味ヴァーチャル・ドラッグ・ムービーということができるかもしれない。
ちなみにこの映画、侍功夫氏のブログ「ゾンビ、カンフー、ロックンロール」のエントリ、「パーティー!イェー!パーティー!ウォー!『プロジェクトX』」で知ったのだが、是非そちらも読んでいただきたい。そこでも書かれているのだが、この映画は日本では劇場未公開ではあるが日本語字幕付きの輸入盤Blu-rayが発売されており、値段もそれほど高くないので興味を持たれた方はAmazonUKあたりで探してみるといいと思う。
- アーティスト: Various Artists
- 出版社/メーカー: Watertower Music
- 発売日: 2012/06/19
- メディア: CD
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