エデナの世界 / メビウス

エデナの世界

大友克洋宮崎駿寺田克也荒木飛呂彦など、多くのクリエーターに影響を与えたメビウスが描くSFファンタジー巨編が、遂に邦訳化! 本作は元々フランスの自動車会社「シトロエン」のために1983年に出版された作品で、その後シリーズものに発展した。 主人公のステルとアタンのコンビが、宇宙船に乗って、エデンの園を想起させる緑豊かな楽園めいた惑星に辿り着く。しかし二人は、ひょんなことから離ればなれになってしまい、見知らぬ土地で互いを探し合う。果たして、二人は再び巡り会うことができるのか?

音信不通になった小惑星工場を調査しにきたアタンとステルは小惑星ごと惑星「巨人」に落下し軟着陸する。惑星をさまよう二人は膨大な数の宇宙船に取り囲まれる形になった超巨大ピラミッドを発見、そこで何事かを待ち受ける宇宙船の乗客たちと出会う。そして上昇する巨大ピラミッド、その中へ吸い寄せられてゆくアタンとステル、宇宙船の人々。ピラミッドは宇宙空間へと飛び立ち何処かへと消えてゆく。ピラミッドの中で目覚めたアタンとステルはエデンの園のような惑星に辿り着いたことを知る。ホルモン抑制剤の切れた二人はそれぞれが男性と女性であることを初めて知り、それに戸惑う二人に諍いがおき二人は離れ離れになってしまう。そしてそれぞれを待ち受ける不思議な意識体と繰り返し襲い掛かる悪夢の存在。惑星には全身をゴムスーツのようなもので覆ったクローンたちによって作られた奇妙な地下都市が存在し、生身の体を晒すアタンとステルを不浄なものとして追い掛け回す。アタンとステルは再び巡り合う事が出来るのか。二人を襲う悪夢思念体の正体は何か。――フランス・コミック界の巨匠、メビウスの描く傑作コミック『エデナの世界』はこんなふうにして物語が進んでゆく。
卓越した描線。美しい色彩。乾いた世界観。自由な発想と稚気溢れる連想から生み出される変幻自在の物語。世界のコミック・アーチストの中でもトップ・クラスの才能を持つメビウスが1983年から2001年にかけて製作し出版した『エデナの世界』は、そんなメビウスの世界を余すところ無く堪能できる極上のSFコミックである。一昨年日本でようやく邦訳の出た『アンカル』が、アレハンドロ・ホドロフスキーによる原作であり、メビウスの美しいタッチが味わえたとはいえ、物語的にはホドロフスキー神秘主義的世界が全面に押し出された世界観だったとすると、作画ともメビウス・オリジナルである本作は、メビウスの魅力に真に迫ることができる作品だということが出来る。
この『エデナの世界』は、フランス本国では本編5巻とスピンオフ1巻で構成され、今回の日本語版では1冊本として発売されるが、構想の段階で、メビウスがこの物語の行き先を全て作り上げ、それぞれの巻を描き上げていったとは思えない。不思議な惑星で、一組の別れ別れになった男女が再び巡り合う、といった大まかな構成はあるにせよ、ここで描かれるめくるめくようなイメージの数々は、その時その時の、メビウスの軽妙洒脱な発想力と、イメージがイメージを生んでゆく、奔放な想像力が、物語を牽引する原動力になっていたのだろうと想像出来るからだ。メビウスはきっと、自らの筆が自らの意思を持ったかのようにイメージを紡いでゆくにまかせながら、この物語を完成させたのだろうと思う。だからこの物語は、堅苦しいドラマツルギーや、退屈な叙述作法などに拘泥することなく、作者メビウスの描く楽しさがダイレクトに伝わってくる作品となっているのだ。その世界は広々として、それがあたかも無限であるかのように自由に満ちている。そこには不思議があり、謎があり、危険があり、冒険がある。絵物語を読み進める愉悦に満ちた当代最高のコミック、メビウスの『エデナの世界』を、刮目して読め!


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