■TIME / タイム (監督:アンドリュー・ニコル 2011年アメリカ映画)
いつともしれない未来、遺伝子操作により人の寿命は25歳までに限定され、それよりも生きようとするものは通貨として「時間」を得なければならなかった。全ての経済はこの「時間」によってやりとりされ、それにより、持てる者はより長命に生き、持たざるものは短い人生を送らざるを得ない。映画『TIME / タイム』はそんなグロテスクな未来を描いたSF作品です。なぜ25年で寿命が限定されたのか、というと、医療技術が発達して人が基本的に不老不死になってしまい、人口増加を抑えなければならないが為に経済状況によって寿命を変動させよう、ということになったかららしいんですね。この社会では富める者が長命で、貧しいものが短命という寿命決定が成されますが、これは現実世界において経済格差による寿命のありかたを暗にほのめかしている、いわば寓意であり寓話ということが出来るんですね。
貧しい者に生きる価値なんかない、世界にとって何の役にも立たない、だからさっさと死んで構わない、そんなシステムが当たり前になった世界、というのは、しかし人口増加で人命がインフレーションを起こしているこの世界の在り様でもあるわけで、この着想は非常に皮肉であると同時に良質なSF設定だと感じました。そして「格差社会への怒り」というテーマは実に今日的であり、それをSFのオブラートで包んで描くことで、寓話のありかたとして実に優れたものになっているんですね。
映画では貧民街と富裕層の生活する街が段階を置いて区切られており、明らかな階級社会として成り立っています。そんな社会で主人公ウィル(ジャスティン・ティンバーレイク)はひょんなことから117年もの時間を手に入れる。これは要するに大金を手にしたのと同じことです。そして主人公はその時間=大金を手に富裕層の街へと繰り出すのですが、時間監視員のレオン(キリアン・マーフィー)は非合法な「時間」の入手があったのではないかとウィルを疑い、彼を付回します。一方ウィルは時間格差=経済格差に怒りを抱き、あちこちで「時間」を奪い、「時間」を持っていない貧しいものに配分し始めます。時間=通貨であるわけですから、この辺の流れは「貧乏に嫌気が差した男が銀行強盗を起こし、奪った金を貧しいものに分け与える」といういわば義賊の物語の変奏曲となっているわけです。
しかし、中盤からラストにかけて、この「義賊の物語」を描くことに終始してしまい、「格差を生む歪んだシステムへの挑戦」といった形へ物語が進まないばかりに、当初あったはずの物語の問題意識が、単なる「大泥棒の追跡アクション」へと矮小化されてしまったことがこの作品の完成度を落としているように感じます。設定はとても魅力的なのですが、その設定を生かして物語をもっと膨らませて欲しかったんですよね。つまり、寓話であるなら、クライマックスに、このような世界を生み出した時間管理機構なり医療技術機構なりと戦って、こんな社会を引っ繰り返してしまうような所まで物語って欲しかったんですよね。だって、結局格差は格差のままなわけで、それじゃあ観ていて納得できませんよ。まあ、この映画の世界が引っ繰り返っちゃうと、最初の問題設定であった人口増加がどうなっちゃうのかはわかりませんが、その辺はなんか知恵出してお話作ってくださいよ。
そんな具合にちょっと食い足りない部分のある映画でしたが、ジャスティン・ティンバーレイクの「貧民はハングリーだぜ!」な顔つきは好きでしたし、キリアン・マーフィーの血圧低そうなクールないでたちもやっぱり好きなんですよね。それと、映画全体のSF風味も決して悪くないんですよ。この映画の監督アンドリュー・ニコルって、『ガタカ』や『シモーヌ』みたいな優れた寓話SFを撮っている人で、『トゥルーマン・ショー』もやはり着眼点の面白い寓話的作品で嫌いじゃないです。ただ、全体的に端整過ぎて食い足りないという部分も似ていて、やっぱり次の作品もこんなテイストなのかなあ。なんかのきっかけで化けて欲しいような気もするなあ。