ポランスキー監督の映画『おとなのけんか』は極上のコメディだった!

おとなのけんか (監督:ロマン・ポランスキー 2011年フランス・ドイツ・ポーランド・スペイン映画)


舞台はニューヨーク。子供同士の喧嘩で片方が怪我をしてしまい、それをきっかけに集まった二組の夫婦。最初は平和的に話し合いを進めようとしていた4人だったが、ちょっとした言葉のあやがどんどんと膨らんでゆき、しまいにはてんやわんやの大騒動に…というコメディ映画です。このコメディの監督にロマン・ポランスキーが挑戦している、というのも大いに興味をそそられましたが、二組の夫婦役をジョディ・フォスターケイト・ウィンスレットクリストフ・ヴァルツジョン・C・ライリーという涎の出そうな面子で演じているのがまた見ものなんですね。この4人それぞれの個性や性格が際立っていて、その個性と性格がぶつかり合い、次第に収集が付かなくなってゆく様が見ていてこそばゆくなるほど楽しいんです。映画は基本的にたった一つの部屋が舞台であり、主演の4人しか登場しないんですが、これだけの登場人物とシチュエーションでここまで見せる監督と俳優陣に脱帽しました。

まず怪我させられた子供の側、ロングストリート夫妻。こちらがマイケル(ジョン・C・ライリー)とペネロピ(ジョディ・フォスター)。いちおう「知的リベラル」な一般市民ということらしいんですが、それが物語を経て次第に怪しくなってくる。マイケルは大雑把で自分の事ばかり言っている快楽主義者だし、ペネロピは神経質で癇癪持ちで正しいことを言っているようでよく聞いてるとポジショントークばかりだったりする。そして怪我させちゃった子供の側、カウワン夫妻。こちらがアラン(クリストフ・ヴァルツ)とナンシー(ケイト・ウィンスレット)。二人はいわゆる富裕層で、鷹揚に見えながら実は剣呑、アランは家庭を妻に任せっきりの傍観主義者だし、ナンシーはこの物語で一番普通に見えて、実はとんでもない行動を突然起こし、物語の流れをいきなり変えてしまうという突拍子の無さを持っています。

でもこの4人、コメディによく出てくるような変人や頭がちょっと緩い人たちでは全然無いんです。実のところ知的だし経済的にも恵まれてるし、一見おかしいところも外れたところもない本当に一般的な人たちではあるんです。しかし同時に、一般的で普通な、という人たちでも誰でもある、「あの人、嫌いじゃないし、悪い人でも無いんだけど、ここさえなけりゃあなあ」と思わせる、ちょっとした「個性」があるんです。人付き合いをしている上で、普段なら問題にもしないであろう、そんな人の「個性」を、ちまちまとしたところから対立させ、次第に増幅させて仕舞いには大騒ぎまで持ってゆく物語展開が、実によく出来ているなあ、と感じさせられました。言っていることもやっていることも一見はみ出していない、変なことを言ったりやったりもしていない、にもかかわらずどんどんとお話の雲行きが怪しくなってゆく、こういった非常に常識的な状況からじわじわと突拍子も無いシチュエーションへと持ってゆく手腕が凄いんですよね。

子供を巡り2組の夫婦でちょっとした意見の相違でしかなかったものが、段々と子供の問題とは何にも関係ない個人攻撃や性格否定へと膨らんでゆき、さらに夫婦同士が仲たがいし、今度は相手の夫婦と意見が合ってみたり、さらには同性同士で共闘して「男はこれだから困る!」「だから女は嫌なんだ!」とやりはじめるさまは、もう可笑しくてしょうがないのと同時に、聞いていて痛いところを突かれるような部分さえあり、なんだか自分も一緒にこの論争に巻き込まれて苦笑いしてしまうんですね。早口でまくし立てられる言葉と言葉の応酬は、観ていて一瞬たりとも気の抜けない緊張感に満ち溢れています。たったの一言が物語の流れを変え、さらにあとあとの諍いの伏線になっていたりするからなんですね。コメディの筈なのにこれほど集中力を要求されるのも珍しいし、この中身の濃さと醍醐味を味わうには劇場が一番だ、とさえ感じました。

ここまで読んでまだ劇場行こうかどうしようか迷っているあなた!この映画では部屋中にゲロをぶちまけるケイト・ウィンスレットやパンツ一枚で途方に暮れるクリストフ・ヴァルツや酒くれよう酒くれようとピョンピョン跳ねるジョディ・フォスターの姿が観られたりするんですよ!どうしてそんなシチュエーションに!?それは劇場で観て確かめましょう!誰が観ても面白さは保障できますが、結婚されている方、子供のいる方、さらに奥さん同士なんかでこの映画を観ると特に楽しめると思いますよ。お勧めです。

おとなのけんか 予告編