『ザ・クリエイター/創造者』はギャレス・エドワース監督の壮大な自主製作映画だった

ザ・クリエイター/創造者 (監督:ギャレス・エドワース 2023年アメリカ映画)

人類とA.I.が戦いを繰り広げる未来世界を描いたSF映画『ザ・クリエイター/創造者』です。この作品、なんといっても『モンスターズ/地球外生命体』『GODZILLA ゴジラ』『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』のギャレス・エドワースが監督を務めたSF映画だというのが注目のポイントでしょう。

主演を 『TENET テネット』のジョン・デビッド・ワシントン、共演として『インセプション』の渡辺謙、『エターナルズ』のジェンマ・チャン、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のアリソン・ジャネイ、そしてA.I.少女をマデリン・ユナ・ボイルズが演じています。

《物語》近未来、ロサンゼルスを核攻撃したA.I.と人類との戦いは激化していた。作戦行動中に妻を失った元特殊部隊員のジョシュアは失意の中新たな作戦に駆り出される。それは最終兵器”アルファ・オー”を作り上げたという創造者ニルマータを発見し排除すること。その作戦の中でジョシュアは幼い少女の姿をしたA.I.アルフィーと出会い、妻がまだ生きているという手掛かりを掴むため組織を裏切り、アルフィーとの逃避行を決意する。

さてこの『ザ・クリエイター/創造者』ですが、自分には良い意味でも悪い意味でもギャレス・エドワース監督の壮大な自主製作映画だったなあと感じました。自主製作映画を貶めるつもりはありませんが、自主製作映画らしく監督の想像力を思うがままに発露させた自由さが存在するのと同時に、自主製作映画にありがちな独りよがりで全体像をコントロールし切れていないという面も感じたという事です。

まず良い面で言うと、なにしろSF作品としての「絵作り」が素晴らしい。多くのシーンで見られる自然の光景にメガストラクチャーを配した映像は、それだけで相当に尖ったSFグラフィックとして大いに感嘆させられます。美しい自然の風景に武骨な巨大人工物が建造されているという異様さがこの映画の作品世界を十二分に物語っているんですね。特に衛星軌道上を航行する巨大殲滅兵器USS NOMADの凄まじい破壊力と禍々しい姿は強く印象に残っています。こういった映像コンセプトはNetflix映画『エレクトリック・ステイト』でも知られるストックホルム出身のデジタルアーティスト、シモン・ストーレンハーグのグラフィック・ノベル作品でも見られますが、SF映画としてここまで追求したのは画期的な事なのではないでしょうか。

今一つに感じたのは世界観の在り方とA.I.の扱い方です。物語世界では「A.I.により攻撃を受けそれによりA.I.を排除してこれと敵対する西洋文明と、A.I.と共存して生きる東洋文明」という対立構造が描かれますが、これがなぜ「世界を二分する対立」にならなければいけないのかがよく分からないんです。A.I.が本当に危険なものならなぜ東洋世界ではA.I.と平和に共存しているのでしょう?これなどは現実社会におけるテロを起点とした西欧社会と中東社会の対立に似ていなくもないですが、単純化し過ぎだし説明不足に感じました。

同時にA.I.の扱い方は、作品ではアンドロイドを一般的にA.I.と呼称しているようですが、これが人間と等しい死生観にあるのがどうもよく分からない。A.I.はプログラムで動き蓄積データの差がそれぞれの個性とされているのでしょうが、なにしろデータなのですからコピーや転送が可能なはずで、それなのにA.I.の死とか葬式とか宗教が描かれるのがどうにも意味不明なんです。併せて人間の記憶がコピーできる描写もありましたが、であれば人間の死も意味が変わってくるはずで、この辺りの掘り下げがされていない部分に疑問を感じました。

こうしてみると映画に登場するA.I.とは「同じ姿形をしていても中身の違う異民族(この作品においては東洋社会)」のメタファーでしかなく、それと欧米社会ないしアメリカ的な覇権国家との対立の構図を描いたものに思えてしまいます。つまり人類v.s.A.I.という物語に存在する「A.I.それ自体への不安や恐怖感、ないしはそれとの共存への模索」を描いたものではなく、単に現実世界の対立構造をフィクションに移し替えただけの寓話的作品に見えるんです。だから「絵作りはSFだけど物語にSF性は薄い」と思えてしまうんですよ。

ギャレス・エドワース監督のこういった作話アプローチの在り方は、同じくSF映画を得意とするニール・ブロムガンプ監督と近いものを感じました。ブロムガンプ監督もSFイメージは秀逸なのですが、SF的な物語性という部分では弱いんですよ。お二人とも映像からSFに入ったキャリアのようですが、SFらしいストーリーを構築するのは苦手なのだろうなあ。そういった部分で、この『ザ・クリエイター/創造者』もとても素晴らしいSFビジュアルを見せてくれるけれども、物語的には食い足りないものとなっていたと感じました。……とまあとてもメンドクサイSFマニアの感想でした!

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