ニール・ブロムカンプ監督によるサイバーホラー映画『デモニック』

デモニック (監督:ニール・ブロムカンプ 2021年カナダ映画)

ニール・ブロムカンプといえば『第9地区』『エリジウム』『チャッピー』といった独特の世界観を持つSF作品を世に送り出し、一世を風靡した監督である。しかし最近ではYouTubeあたりで実験的な短編SF映像をちらほら製作しているらしいこと以外は特に音沙汰もなく、何してんのかなあ?もう監督やるの飽きたのかなあ?などと思っていたのだ。そんなブロムカンプ監督であるが、どうやら新作を(ひっそりと)リリースしていたらしい。タイトルは『デモニック』。

【物語】カーリーは絶縁中の母アンジェラが全身麻痺で昏睡状態に陥っていることを知る。かつて看護師だった母は老人ホームに放火して大量殺人を犯し、カーリーは母との縁を切ったのだった。母が保護されている医療施設を訪れたカーリーは医師から、母の意識へとつながる仮想空間に入って母を呼び戻してほしいと頼まれる。半信半疑で仮想空間に入ったカーリーは、そこで母と再会するが……。

デモニック : 作品情報 - 映画.com

前半はなにやらSFチックな展開を迎える。主人公アンジェラは特殊な医療機関から、重犯罪者であり現在硬直症を起こし意思疎通不能となった母の精神へダイブしてくれと要請されるのだ。これは仮想空間を利用したものらしいが、なにやらお互いにヘッドセットを装着して為される。詳しいテクノロジー説明は省かれていて、なぜ主人公と母親の精神で展開している映像が第3者である医師が見ているモニターに写されるのかチンプンカンプンなのだが、とりあえずそういうことになっている。

ブロムカンプ映画のダメなところはこの「詳しいテクノロジー説明は省く」という部分だ。SF映画をあれだけ撮っておきながら、SF考証をきちんとしていない。廃物感覚溢れる映像は魅力的だが、テクノロジー説明が足りないので毎回物語としてどうも煮え切らない後味を残すのだ。とはいえ、今作における仮想空間映像はなかなか独特だ。それはプレステ3世代あたりのゲームの、それをさらに処理落ちさせたようなCG画像なのだ。チープと言えばそれまでだが、結構不気味でもあり、この辺りは低予算なりに工夫したのだなと思わせる。

その後の物語も説明の無さ加減により唐突かつ支離滅裂となる。どうやらアンジェラの母親には「悪魔」が取り憑いているらしく、それが次にアンジェラに憑依するのを狙っているというのだ。つまりはホラー展開という事なのだが、ブロムカンプ監督にはホラーの素養があまり無いのか、ホラー独特の外連味に乏しく、ありがちなものを新しく見せるセンスもなく、ホラーマニアにはそっぽを向かれるであろうお寒い物語運びだ。ことホラーに関しては「真面目な不真面目さ」が必要だが、ブロムカンプは真面目過ぎるのだ。

しかしそんなことを思っていたら、今度は「強化装備とアサルトライフル武装したキリスト教神父集団」なんてのが出てきて、突然やる気のありそうなところを見せる。つまりはサイバー・ミリタリー・ホラーという事じゃないか。これは盛り上がりそうじゃないか!……などと期待を大きく膨らませていたらこれも結局羊頭狗肉で、どうにしょっぱい展開を迎えてしまうことになる。

ただやる気がある事だけは見せてもらった。そう、ブロムガンプはサイバー・ミリタリー・ホラーという新しいジャンルを開拓したかった。映像にはゲーム画面を思わすものを登場させ、ゲーム的な発想と物語性を加味したかったことも分かった。ただなあ、いつも通り説明が足りな過ぎて支離滅裂になったシナリオと、予算それ自体の足りな過ぎで、意気ばかりはやるが形になっていない映画にしてしまっている。

とはいえ退屈な部分も多かったが、オレはこの映画をそれほど否定したくはない。ただ惜しいと思ったのだ。そういやブロムガンプ、最近はゲーム開発に本格参入しているという話だから、そちらに軸足を向けたその過渡期の(あるいは最後の?)映画作品だとも言える。ゲームのような映画のようなどっちつかずだったのはそのせいかもしれない。

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