最後の三角形 ジェフリー・フォード短篇傑作選 / ジェフリー・フォード(著)、谷垣暁美 (編集, 翻訳)
魔法は破られるようにできているの。 でも、約束はそうじゃない。 世界幻想文学大賞に7回、 シャーリイ・ジャクスン賞に4回、 MWA賞、ネビュラ賞など数多の賞に輝く現代幻想文学の巨人による 郷愁と畏怖と偏愛に満ちた14篇
最近翻訳物の怪奇幻想不条理小説ばかり読んでいるのだが、今回読んだのはアメリカ人作家ジェフリー・フォードの短編集『最後の三角形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』。ジェフリー・フォードは以前『言葉人形 ジェフリー・フォード傑作短編集』という短編集を読んだことがあり、これが非常にこってりとした濃厚な幻想文学集だったので今回も大いに楽しみにしていた。
とはいえ、実際読んでみると前回読んだ『言葉人形』とは趣の異なる作品が多く収録されていて若干驚いた。実はこの『最後の三角形』にしても『言葉人形』にしても、作者がこれまで本国で刊行した短編集を日本で独自編集したものとなるのだが、この編集の方向性がそれぞれに違っているということのようなのだ。『言葉人形』は幻想小説に特化したセレクトだったが、この『最後の三角形』ではもっとホラー寄りであったりガチにSFな作品まで登場する。もともとジェフリー・フォードはSF、ミステリー、ホラー、ファンタジーと多彩な作風を持つ作家なのらしく、逆に言うなら今回のセレクトはよりジェフリー・フォードの全体像に即したものという事ができるかもしれない。
収録作をザックリと紹介。まずネビュラ賞受賞作「アイスクリーム帝国」は”共感覚”をキーワードに奇妙で驚異的な物語が綴られる。「マルシュージアンのゾンビ」「トレンティーノさんの息子」「タイムマニア」はホラー作品となるが、独特のツイストがかけられていて展開の読めない楽しさがあった。「最後の三角形」「星椋鳥(ほしむくどり)の群翔」はホラー・幻想風味のミステリー、「ナイト・ウィスキー」もホラー風味の幻想譚。「恐怖譚」は実在の詩人エミリー・ディキンスンと死神の物語となるが、非常によく練られた作品で短編集中の白眉となるだろう。フェアリー・ファンタジー「本棚遠征隊」「イーリン=オク年代記」はジェフリー・フォードの多彩さがうかがわれる。
短編集後半「ダルサリー」「エクソスケルトン・タウン」「ロボット将軍の第七の表情」「ばらばらになった運命機械」はどれもSF作品。「ダルサリー」は若干平凡だが、それ以降の作品がどれもなかなかに読ませる。オレはどちらかというとSF読みの人間なのだが、そのオレをして「これは単純にSF短編の傑作と呼んでいいのではないか」と思わせるものがある。SFを専門として書いている作家のものよりも異界と異形の描き方が異様であり秀逸なのだ。これは多彩な作品を書き分けるジェフリー・フォードならではの持ち味なのだろう。このSF作品群を読めただけでも今回の短編集は収穫だった。
そういった訳で『最後の三角形』、ジェフリー・フォードの素晴らしいSFと多彩なジャンル作品を読みたければこちらの短編集を、ガチで濃厚な幻想小説集を読みたければ『言葉人形』をお勧めしたいと思う。そして両方読めばさらに吉であるといえよう。
【収録作】アイスクリーム帝国/マルシュージアンのゾンビ/トレンティーノさんの息子/タイムマニア/恐怖譚/本棚遠征隊/最後の三角形/ナイト・ウィスキー/星椋鳥(ほしむくどり)の群翔/ダルサリー/エクソスケルトン・タウン/ロボット将軍の第七の表情/ばらばらになった運命機械/イーリン=オク年代記/編訳者あとがき