巨大竜巻を追い掛けろ!/映画『ツイスターズ』

ツイスターズ (監督:リー・アイザック・チョン 2024年アメリカ映画)

日本は地震大国と言われるが、アメリカはさしずめ竜巻大国と言えるかもしれない。過去10年間の統計では年間1300の竜巻が発生し、多い年では100人以上が竜巻の犠牲になっているという*1。その竜巻をテーマにした映画と言えばヤン・デ・ボン監督による1996年公開の『ツイスター』だろう。この映画、竜巻に襲われる町々を描く単なる災害映画かと思っていたら、研究のために竜巻に突っ込んでゆくイカレた連中を描いていて、妙に新鮮だったのと同時に変わった切り口だなあと感心したのを覚えている。そして『ツイスター』の続編?リメイク?となるのが最近劇場公開された『ツイスターズ』となる。

《STORY》気象学者のケイト・カーターは竜巻観測の最中に多くの友人を亡くすという辛い過去を持っていた。そんなケイトの元にかつての友人ハビが現れ、新たなテクノロジーによる竜巻観測実験への参加を懇願される。ハビのチームと共に竜巻が大量発生する生まれ故郷のオクラホマへと赴くケイト。そこでケイトは竜巻追跡を動画配信するイカレた男、タイラー・オーウェンズとその仲間たちに出会う。そしてハビのチームとタイラーのチームは競い合うかのように巨大竜巻の追跡を開始する。

いやこれは面白かった。次々と巻き起こる巨大竜巻とそれにより瓦礫の山となる町々を驚異的な特殊効果で描き、一級のアトラクション・ムービーとして完成していた。この素晴らしい特殊効果を体験するだけでも観る価値のある作品だ。巻き込まれてしまったらもう命はないという竜巻の恐怖は迫真的であり、そんな竜巻の中へ実験や動画配信という理由で突っ込んでゆく登場人物たちの命知らずの行動にハラハラさせられた。そもそも科学実験というならまだ理解できるが、配信収益の為に竜巻に突っ込んでいくイカレた連中がいるという部分に唖然とさせられた。

物語は冒頭、主人公ケイトが体験した凄まじい竜巻災害の悲劇が描かれ、ここでまず血の凍る思いをさせられる。その後幾年か経ち、ニューヨークで研究生活を続けるケイトがハビと合流することになる。そして観測実験班のハビ・チームと、動画屋のタイラー・チームとが牽制し合いながら竜巻を追ってゆくシークエンスが描かれ、この対立構造が物語を面白いものにしている。しかし物語後半、主人公ケイトはイカレた連中に見えながら被災者にボランティアを施すタイラー・チームへの見方を変え、同時にタイラー個人に強い興味を抱き始める部分から新たな展開を迎えることになる。

この主人公ケイトを映画『ザリガニの鳴くところ』のデイジーエドガー=ジョーンズが演じており、拭いきれない過去の悲劇と災害研究に賭ける現在と間で揺れ動く心情を繊細に演じていた。こっそり言うとこのデイジーエドガー=ジョーンズ、大変美しい女優さんで、「こんな災害映画にこんな美しい方が場違いな……」と思ってしまったことは白状しておこう。一方、タイラーを演じるグレン・パウエルは、一見個人主義的なイカレマッチョのように見えながら、その実どうも真意の読み取れない謎めいた性格をしているキャラクターを巧みに演じていたと思う。

一貫して目を引いたのは、舞台となるアメリカ中西部の町並みとその自然との、都市部とはまた違うまさにアメリカ然とした光景だ。世界最大の経済大国として知られるアメリカのその核となるのは、ニューヨークやロサンゼルスなのではなく実はこういった中西部で生きる人々であり、そんな彼らがアメリカという国を体現してるのではないかと思えてしまった。彼らは土地に根付きその土地を愛するが、それ自体がアメリカという国への愛なのだろう。その彼らが土地を蹂躙する災害に傷付き、その災害と戦おうとする。映画『ツイスターズ』からは、単なる災害映画に終わらないそんなアメリカ人の心象を感じた。