ザック・スナイダーの『REBEL MOON ディレクターズカット』が無印とは全く別物の傑作映画だった

REBEL MOON ディレクターズカット/ チャプター1:血の聖杯、チャプター2:赦しの呪い (Netflix映画) (監督:ザック・スナイダー 2024年アメリカ映画)

ザック・スナイダー監督が「『スター・ウォーズ』と『七人の侍』にインスパイアされましたッ(キリッ)!!」と豪語して製作されたNetflix映画『REBEL MOON パート1&2』、オレには全然面白くなかった。インスパイアというより安いコピー製品にしか思えなかった。オレはザック映画の大ファンだったのだが、これには絶望させられた。

しかし、その『REBEL MOON パート1&2』のディレクターズカットが製作されたと知って、恐る恐る観てみることにしたのだが……

なんだこれは?!無印とは全く別物の最高に面白い映画じゃないか!?

もともと2部構成だった『REBEL MOON』のディレクターズカット版はそれぞれに「チャプター1:血の聖杯」「チャプター2:赦しの呪い」と新しいサブタイトルが付けられ、「チャプター1」は3時間24分、「チャプター2」は2時間53分と、無印よりも2時間長い合計6時間17分まで膨れ上がった尺となっている。

その中に膨大な追加映像、特殊効果の大幅な変更、新たな解釈の編集があらん限りにぶち込まれ、それにより物語はどこまでも深化し、驚くべき映像が連打し、キャラクターは掘り下げられ、ひたすらエモーショナルで、ひたすら残虐な物語と化していたのである。ザックお得意のフリーダムなイメージとマジカルな映像美、そしてむせかえるようなエモーションが全てを覆い尽くし、まさに「ザック節」と呼ぶべき世界が百花繚乱と花開いているのだ。そう、これこそがザックの本気だ。オレの大好きだったザックが帰ってきたのだ。

(ただし一言付け加えておくと、もともとザックは論理的整合感に乏しいひどく感覚的に過ぎる映像を作っちゃう人でもあり、素で観ちゃうと「いやそれはありえんだろ」という描写が平気で飛び出してくるので、ツッコミどころも含めて「ザック節」って事で勘弁してあげてください……。しょうがないだろ!だってザックなんだから!)

新映像や変更点がどのようなものなのかは以下のサイトが参考になる(注:ネタバレになるので視聴後に読むべし)。

何より無印と大きく変わっているのは、流血と肉体破壊がとことん映像化された凄まじいバイオレンス作品となっているという部分だ。同時に主演であるソフィア・ブテラのエロティックなシーンも追加されている。これは「チャプター1」がR18+、「チャプター2」がR16+と、R13+だった無印と比べてレーティングが様変わりしていることからも分かるだろう。

これについてザック自身も「(ディレクターズカット)は『エクステンデッド(拡張)・カット』ではないんだ」「それはもはや別の映画だよ。この映画とそれ(R指定版)が存在する世界はまるで別世界なんだ」と言い切っている。

このインタビューからはザックが無印製作段階から確信犯的に別物を作る気マンマンだったことが分かるだろう。

残酷描写が増すことで何が変わってくるのか、オレのような変態映画ファンが喜ぶだけじゃないか、と思われるかもしれないが、それはちょっと違う。残酷描写が激しくなることにより、戦争の悲惨さをより明確に描き出すことになるのだ。このディレクターズカットからは、ロシアのウクライナ侵攻やイスラエルによるガザ攻撃といった、現実の悲惨極まりない戦争を否応なく思い起こしてしまった。テーマがより際立ったものになっているのだ。

もう一つ付け加えるなら、これが映画的記憶を集大成したようなSF作品だったということだろう。『スター・ウォーズ』+『七人の侍』のみならず、『ブレードランナー』や『グラディエーター』を思わせるショットがあり、『コナン・ザ・グレート』や『マッドマックス』の如き登場人物が現れ、『エクスカリバー』の幽玄さと『デューン砂の惑星』の如き宇宙帝国が持ち込まれ、マイケル・チミノ監督『天国の門』を思わせるシークエンスがあり……といった具合に挙げていけばきりがない。その幾つか、あるいは多くはザックの映画的記憶なのだろう。様々なオマージュをタペストリーし、「ザック節」で1本にまとめ上げた映画、『REBEL MOON ディレクターズカット』はそんな作品でもあった。

そしてなんと……続編作る気満々の終わり方してるじゃないかよ!?

ああ観るさ、ザックが撮るならどこまでも観るさ!

『REBEL MOON — ディレクターズカット』R指定予告編 - Netflix (年齢制限あり)