パナソニック汐留美術館『つながる琳派スピリット 神坂雪佳』展を観に行った

この間の土曜日はパナソニック留美術館で開催されている『つながる琳派スピリット 神坂雪佳』展を観に行きました。実はこの日は展覧会初日で、オレもいよいよ初日に駆けこんじゃう人になっちゃったかあ、などとどうでもいい事に感嘆していました。ちなみに美術展が最も混み合うのは初日から数日間と最終日前の数日間だというのをどこかで聞いたことがありますが、この日は時間予約が一杯だったものの、会場自体は混み合っているというほどではありませんでしたね。

《展覧会概要》神坂雪佳(1866-1942)は、明治から昭和にかけ、京都を中心に活躍した図案家・画家です。20世紀の幕開けと同時に、欧州で当時最先端の美術工芸を視察したことで、雪佳はあらためて日本古来の装飾芸術の素晴らしさを再認識し、「琳派」の研究に励みました。本展覧会は、「琳派」というテーマを通じて、多岐にわたる神坂雪佳の活動の真髄をひもときます。

つながる琳派スピリット 神坂雪佳 | パナソニック汐留美術館 Panasonic Shiodome Museum of Art | Panasonic

ところで今回の『つながる琳派スピリット 神坂雪佳』展ですが、実はオレ、「神坂雪佳(かみさかせっか)」という画家も「琳派」という流派の事も全く知らない人間だったんですね……最近美術展によく行くようにはなりましたが、実際のところ単なる酔狂でありまして、美術や美術史にたいした詳しいわけじゃないんです!そんな「なんにも知らない人」がなぜ今回の展覧会に行ったかというと、たまたま見かけた展覧会のチラシが、とっても可愛らしかったからなんですね!この絵です!いやもう卑怯なぐらい可愛いでしょ!?

神坂雪佳 《百々世草》より「狗児」

さて「琳派」とは何か、そして神坂雪佳はその中でどういう立ち位置にあるのかというとこういうことらしいのですね。

琳派」の起源は、江戸時代初期にさかのぼります。平安王朝の典雅な美に憧れ、その再興を目指した新しい芸術は、時を経て幕末から近現代にまで至る、世界的にも類まれな芸術の潮流となりました。中でも、本阿弥光悦俵屋宗達尾形光琳尾形乾山、さらに酒井抱一、鈴木其一といった日本美術の歴史を彩る芸術家たちの偉業はよく知られているでしょう。そして明治時代の京都に登場した神坂雪佳は、琳派の芸術に強い関心を寄せ、その表現手法にとどまらず彼らの活動姿勢にも共感し、自ら実践していきました。そのあり方から「近代琳派・神坂雪佳」とも呼ばれています。

つながる琳派スピリット 神坂雪佳 | パナソニック汐留美術館 Panasonic Shiodome Museum of Art | Panasonic

「近代琳派」なんていう呼び名があるように、神坂雪佳は琳派の後期に位置する画家であり、本阿弥光悦俵屋宗達尾形光琳といった有名琳派画家の意匠を継ぎながらも、もっと庶民レベルなアートを目指した画家なんですね。デザインやテキスタイルなど、マスプロダクツに関わる意匠を多く作り上げているんですよ。ある意味「芸術家」というよりも「デザイナー」に近い存在だったように思えます。ですから琳派の画家というより琳派のテイストを上手く拝借したデザイナーが神坂雪佳だったのではないでしょうか。

その辺りが顕著な作品が神坂雪佳の《杜若図屛風》なんですが、これ、見ればわかるように国宝になってる尾形光琳の《燕子花図屏風》から意匠を借りてきた作品なんですね。

神坂雪佳 《杜若図屛風》

参考までに尾形光琳の《燕子花図屏風》を置いてみます(参考作品です。展覧会に展示されているわけではありません)。

尾形光琳 《燕子花図屏風》

尾形光琳の《燕子花図屏風》は「どうだ凄いだろ」とばかりに迫ってきますが、神坂雪佳の《杜若図屛風》はこじんまりとして可愛らしく、「あなたのお部屋にもこんな屏風はいかがですか?」と言ってるようじゃありませんか。こうして比べると分かるように雪佳の作品は綺麗に出来ているしそれらしいけれど、平板で深みはないんですね。でもデザインであり意匠なので、それでいいんですよ。むしろ日常生活に置くものに「深み」や「重々しさ」といった存在感は邪魔になってしまうんです(とはいえ尾形光琳というのも芸術家というよりもデザイナーに近いのではないかと思いますけどね)。

また、雪佳の特徴として挙げられるのは大胆な構図様式とユーモアだと言われています。例えばこの金魚が正面を向いてる掛け軸などは、楽しさが溢れていますよね。

神坂雪佳《金魚玉図》

デザイナー/図案家としての雪佳の魅力を伝える著作には《ちく佐》《滑稽図案》《百々世草》などがあります。どれも綺麗で、そして楽しいんですよ。

神坂雪佳《ちく佐》より

神坂雪佳《滑稽図案》より

神坂雪佳《百々世草》より

雪佳はこうした絵画や図案以外にも工芸品や調度品の意匠を手掛けたりもしています。この《雪庵菓子皿》を展覧会場で見た時は、あまりに可愛らしくて可笑しくて、ついつい笑ってしまいました。

神坂雪佳 図案 河村蜻山 作《雪庵菓子皿》

この蒔絵の煙草箱《帰農之図蒔絵巻煙草箱》にしても、アートとか高級工芸品とかいうよりも、やはりユーモラスな味わいのあるとても温かみを感じさせる作品ですよね。

神坂雪佳 図案 神坂祐吉 作《帰農之図蒔絵巻煙草箱》

若冲光琳の気迫みなぎる作品もそれはそれで見応えがありますが、雪佳の作品の親しみやすさ、楽しさ、ある種の他愛のない美しさというのも、どこか心安らぐものを覚えます。神坂雪佳、ちょっと気にいっちゃったなあ。