変わりゆく世界の中で決して変わらない想いを描く珠玉の名編/映画『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』

ダウントン・アビー/新たなる時代へ (監督:サイモン・カーティス 2022年イギリス・アメリカ映画)

イギリス貴族の華麗なる生活を描くTVドラマ『ダウントン・アビー

20世紀初頭のイギリスを舞台に、ダウントン・アビー城で暮らす貴族クローリー家とその使用人たちとが織りなす華麗なる群像劇を描いた人気TVドランシリーズ『ダウントン・アビー』。このドラマは2010年から2015年まで全6シーズンが放送され、ゴールデングローブ賞エミー賞など様々な賞に輝き、世界で最も視聴されたドラマの一つとしても知られている作品です。

あのミック・ジャガーがファンであることを公言していることでも有名な作品ですが、オレもミック・ジャガーに負けず劣らずこのドラマの大ファンで、毎話毎話観る毎に心蕩けさせられ「ああん……素敵だったわ……」とお目目をハートマークにしてため息をついていた程でした。シーズン終了後も人気は決して衰えることなく、2019年に遂に映画化され大ヒット、さらにその余勢を駆い2022年に映画化作品第2弾として公開されたのがこの『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』です。

ドラマ『ダウントン・アビー』の魅力、さらに映画化作品第1弾の感想は以前こちらで書きましたので宜しければお読みください。

人気TVシリーズ映画化作品第2弾!

映画『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』は前作映画の1年後、TVシリーズ終了時の2年半後である1928年のクローリー家を描いています。今作では2つのドラマが展開します。1つ目はハリウッドの映画製作会社からダウントン城を映画ロケ地に使わせてほしい!と打診があり、クローリー家と召使たちが大騒ぎになるというお話。もう一つはフランス貴族から南仏の別荘が譲られることになり、一家はそこに出掛けるのですが、なにやら深いワケアリな事態が隠されていた、というお話。

《物語》1928年、英国北東部ダウントン。グランサム伯爵クローリー家の亡き三女シビルの夫トムが、モード・バッグショーの娘と結婚することに。華やかな宴が繰り広げられるが、屋敷は傷みが目立ち、長女メアリーは修繕費の工面に悩んでいた。そんな折、映画会社から新作の撮影に屋敷を使用したいとの申し出が入る。高額な謝礼をもらえると知ったメアリーは、父ロバートの反対を押し切って撮影を許可。一方、ロバートは母バイオレットがモンミライユ男爵から南仏の別荘を贈られたことを知る。その寛大な申し出に疑問を抱いたロバートは、家族とともに現地へ向かう。

ダウントン・アビー 新たなる時代へ : 作品情報 - 映画.com

「ダウントン城映画ロケ地編」、「南仏別荘篇」の二つのドラマは同時進行で語られ、登場人物たちはそれぞれのドラマに数人ずつ別々に割り振られて物語が進んでく形になります。どちらも笑いがあり涙があり、物語に配された大いなる謎や密やかな苦悩が緊張感を生み、様々な人間関係が大きなうねりとなって紆余曲折を経ながら一つのドラマへと収束し、大団円を迎えるのです。

同時進行する2つのドラマ

いやあもう、今回も十二分に楽しませてもらいました。映画化第1作がTV版のゴージャスなアップグレード篇だったとすれば、この第2作目はTV版の持つ細かな人間関係の面白さを巧みに活かし、『ダウントン・アビー』本来の楽しさと豊かさを掘り下げた作品だったという事ができるでしょう。

「ダウントン城映画ロケ地編」ではハリウッドスターの登場に使用人の皆さんが大いにさんざめくのですが、主演女優がどうにもイケズでみんなゲッソリ!一方撮影中に突如サイレントからトーキーへと方針が変わったことで大騒動!?というドラマが展開します。ここでは「サイレントからトーキーへ」という時代の変化を見せながら、ダウントンお馴染みの使用人の皆さんがとんでもない大活躍を披露し、シリーズ始まって以来の「大変身」を見せてくれるのが大いに盛り上がりました。名物キャラによる可笑しなシチュエーションも頻出し、オレは映画を観ている間中クスクス笑いが止まりませんでした!

一方「南仏別荘篇」ではクローリー家長老であるヴァイオレットの過去の秘められた恋、当主グランサム伯爵の出生の謎、妻であるコーラを襲う病魔など、『ダウントン・アビー』の物語を揺るがすドラマチックな展開が目白押しとなります。このトーンの異なる二つの物語が絡み合うことで相乗効果が生まれ、非常に豊かなドラマへと結実してゆくのです。

新たなる時代へ

そしてこれらのドラマを通して描かれるのは「時代の変化」です。そもそも『ダウントン・アビー』は、ドラマ1作目からこの「時代の変化」を描き続けてきた作品でした。一見煌びやかな貴族の生活を描いているように見えながら、20世紀初頭は貴族の没落が始まった時期であり、クローリー家にもその影が忍び寄り、存続の危機が囁かれていました。そんな中で、貴族と平民の立場の変化、男女の立場の変化、社会全体の変化を描いてきたのがこのシリーズなのです。

しかしそういった変わりゆく世界の中で、変わらないものを描こうとしたのもまたこの作品なのです。それは人と人との信頼であり愛であり、生きるために常に最善の事を成してゆこうという気概です。貴族と平民、その立場に違いこそあれ、人同士の想いと繋がりにも、今生きている場所で精一杯生きてゆこうという気概にも変わりはありません。変わりゆく時代、変わりゆく立場の中でお互いに手を取って生きてゆこうとすることの素晴らしさがこのドラマにはあります。

それは映画化作品第2作であるこの『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』でも決して変わりはありません。いや、その変化が今まで以上に加速しているからこそ、より一層鮮烈な印象を与える作品として完成していたのではないでしょうか。そして深い余韻を残すそのラストは、それ自体が豊かに実るひとつの幸福の情景だと思えてなりませんでした。

素朴な時代への憧れ

最後にあれこれと雑駁な印象などを。

まず今作でも衣装がいい!貴族男性のりゅうとした背広姿、貴族女性のたおやかなドレス姿、その煌びやかな宝飾の数々、こうした貴族の服装も素敵でしたが、使用人たちのパリッとしたお仕着せ、あるいは普段着の飾り気の無さもまた素敵でした。『ダウントン・アビー』を観る楽しさの一つは、この「服飾を見ることの楽しさ」にあるといっても過言ではありません。

もちろん本物の城を使ったロケーション、その豪奢極まりない内装、家具、小道具、それらを眺めることの楽しさも忘れてはいけません。同様に平民たちのつましい生活の様子もまた見ていて心和みます。つまり服飾にしろセットにしろ、当時のイギリスを完璧な時代考証を基に再現している部分にこの作品の凄さがあるんです。それはあたかもこの時代にタイムスリップし、登場人物たちに寄り添いながら物語を注視しているような気持ちにさせられるんです。

それは眩しくもまたおおらかな時代であり、厳しくもまた愚かな時代でもありました。過去とはいつもそんなものなのだと思います。ただ、現代のように様々なものが複雑化してしまう以前の、素朴な時代への憧れ、そんな郷愁が、『ダウントン・アビー』にはあるんです。

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