この間の日曜日は相方さんと二人、渋谷シアター・オーブで上演されている『マシュー・ボーンの眠れる森の美女』を観に行きました。映画じゃないです。バレエです。実は以前、相方さんにねだられマシュー・ボーン演出による『白鳥の湖』を観に行ったことがあるんですが、これが実に素晴らしく、長く記憶に残ってたんです。まあ、舞台だのバレエだのにはまるで縁の無い生活をしているオレではありますが、この時の素晴らしさが忘れ難くて、今回またマシュー・ボーン演出作が上演されると知り、早速チケットを予約して楽しみにしていたんですよ。
なにしろバレエその他舞踏芸術については何も知りませんし、ダンサーたちがどれだけ高いスキルを持っているのか、またマシュー・ボーンがどれだけ高い演出力をもっているのか、といったことは何も語る言葉を持ってはいませんが、それでも今回も楽しませ、驚かされる作品であったことは確かです。
『眠れる森の美女』といえばヨーロッパの有名な民話・童話として誰もが知っているタイトルで、ディズニー・アニメなどを観たことがある方も多いでしょう。この物語はバレエ作品となり、ロシアの作曲家チャイコフスキーが音楽を作曲し、1890年に初演されたのが今回の演目となります。お話はというともちろん、悪い魔女に呪いをかけられ長きに渡る眠りについてしまった王女を真実の愛を持つ者が救いに来て……というものではありますが、実は今回のマシュー・ボーン演出作品、アウトラインこそ同じでも、舞台設定を変えることにより全く別物の「眠りの森の美女」になっていることに驚かされました(ここからはネタバレ含むので自分で観てびっくりされたい方は読まないでください!)。
まずなにしろ最初に物語が始まるのが1980年のイギリス貴族の邸宅なんですよ。そして主人にメイドや執事が仕えているんですよ。中世ヨーロッパのどこかの王国の、ふわふわした衣装を着た人たちが出て来るわけでは決して無いんです。ここで生まれたばかりでまだ赤ん坊の貴族の娘が、パペットを使って演じられていたのがまず楽しかった!時代が19世紀末とはいえきちんと魔女や妖精が出てきて妖しくもまた美しいダンスを披露すするところがいいんですね。
そして21年後、成人した貴族の娘が登場し、ある青年と出会います。しかしそれは王子さまではなく、しかも貴族でもなく、なんと屋敷の使用人である一人の青年なんです。この辺の階級制度の在り方が実にイギリス人演出家っぽいですね!しかもこの使用人の青年、貴族の娘が呪いの眠りにつく前に恋仲になっており、彼女が眠りにつくと同時にこの青年も妖精によって滅びない肉体に変身させられるんです。そして幕間となり、次の時代は100年後……つまり21世紀になっちゃうんですよ!
そしてこの物語、貴族の娘と青年との愛だけではなく、それを邪魔する魔女の息子というのが登場します。しかしこの魔女の息子というのがやはり貴族の娘に恋してしまい、これにより娘を奪い合うドラマが持ち込まれるんですね。そこはかとなく漂うシニカルな香りは実に英国流と思わせますし、要所要所で笑いの箇所があることにもびっくりさせられました。貴族の豪邸の美術セットもシンプルではありますが美しかった。
ただしこのバレエ作品、結構長いんです。前半1時間半、後半は1時間弱ぐらいでしたでしょうか。調べるともともとのチャイコフスキー作品も3時間に及ぶ大作らしく、その楽曲をほぼ再現する形で演じられたのでしょう。チャイコフスキーの『眠りの森の森の美女』を殆どフルで聴く、というのも人生でそうそう無い体験だったような気もします。この時間の中にバレエがみっちり詰め込まれ、緊張感あふれるダンサーたちの踊りをずっと追ってゆくのは実は相当集中力を要求されました。要するに慣れていないので少々疲れた。もちろんこれは自分の体力不足のせいですが、逆にこの物凄い緊張感こそが舞台の面白さなのだな、と思わされました。
◎こちらは映画版の予告編映像ですが、舞台もまさにこんな感じでした。
https://www.youtube.com/watch?v=JeuQCoF1gp8:MOVIE:W620