クロエ・グレース・モレッツがモンスターとバトルを繰り広げる映画『シャドウ・イン・クラウド』

シャドウ・イン・クラウド (監督:ロザンヌ・リャン 2021年ニュージーランドアメリカ作品)

第2次世界大戦のさなか、極秘任務を帯びて爆撃機に乗り込んだ女性大尉がこの世にあらざるものを目にしてしまう、というサスペンスアクション映画です。なんといっても『キック・アス』『モールス』のクロエ・グレース・モレッツが主演を務めてるのが見所でしょう。

《物語》1943年。ニュージーランドからサモアへ最高機密を運ぶ密命を受けた連合国空軍の女性大尉モード・ギャレットは、B-17爆撃機フールズ・エランド号に乗って空へ飛び立つ。モードは男性乗組員たちから心無い言葉を浴びせられながらも、ひたむきに任務を遂行しようとする。やがて彼女は高度2500メートルの上空で、自機の右翼にまとわりつく謎の生物を目撃する。次から次へと想像を絶する試練に見舞われる中、大切な荷物を守りながら決死の戦いを繰り広げるモードだったが……。

シャドウ・イン・クラウド : 作品情報 - 映画.com

最初に「この世にあらざるもの」なんて勿体付けて書きましたが、クロエ扮する主人公ギャレットが目にしたもの、それはグレムリンなんですね。グレムリンというとジョー・ダンテ監督の作品『グレムリン』(84)で名前を知っている方が多いと思いますが、どちらかというと「飛行機に悪さをする妖精」のことを指し、これはホラーオムニバス映画『トワイライトゾーン/超次元の体験』(83)の第4話 「2万フィートの戦慄」に出てきた不気味な小鬼がイメージとして近いでしょう。この『シャドウ・イン・ザ・クラウド』でも、闇から現れたグレムリンが主人公たちの乗る爆撃機を破壊し、乗員たちに襲い掛かってくるんですね。

物語はこういったホラーテイストのアクションと並行して、予告なく爆撃機に乗り込んできたギャレット大尉と乗員たちとの軋轢が描かれることになります。女性であるギャレットに対し、男性ばかりの乗員たちが性的な侮蔑や嘲笑を浴びせかけてくるのです。しかしギャレットは孤立無援の中、毅然としてこれに立ち向かい、あまつさえ敵襲を制圧し、さらにはグレムリンとまで戦いを繰り広げてゆくのです。こういった「パワフルな女主人公」の物語である、というのが一つのポイントになるでしょう。

しかし若干疑問に感じたのは、ギャレットのような「婦人補助空軍」という立場の女性が、男性の軍人からこの物語のようなあからさまな性的嫌がらせを受けたのだろうか、ということです。仮にもギャレットには大尉という階級があり、さらには軍上層部から密命を受けたとされる親書を携帯しているのです。軍隊というのは階級社会であるというのがオレの認識なのですが、この物語ではあまりにもそれを無視しすぎているように感じました。とはいえ、実際にも当時はやはりこんな具合だったのでしょうかね?

もう一つ疑問に感じたのは、ギャレットの携帯する「機密とされた小箱」の真相です。詳しい内容には触れませんが、真相が明らかにされたときに、ギャレットの正体も併せ、「ちょっとソレいろいろ無理があるんじゃない?」と思ってしまったなあ。

映画の作りはある意味B級作品です。それなりにVFXも使っていますが、基本は狭い爆撃機の機内だけで物語が展開し、それ自体が貧相なものに見えてしまっています。グレムリンの造形にしても単にバカでかいコウモリといった感じで、あまりバケモノとしての禍々しさを感じません。ギャレットと乗員たちのドラマも「気丈な女v.s.下品な男/その中で理解を示す男」という図式的な構図以上のものがありません。アクションでは「あわやギャレット墜落!?」のシーンのくだりがなかなかに荒唐無稽で見所がありました。そしてやはりクロエ・グレース・モレッツの存在感でしょう。あれこれ苦言を呈したい作品ではありますが、やはり彼女の存在が作品すべてを牽引していたといっても間違いないでしょう。