■真鍋博の世界 (愛媛県美術館 監修)
この『真鍋博の世界』は愛媛県美術館で2020年10月1日~11月29日まで開催される「真鍋博2020」公式図録兼書籍となる。オレは真鍋氏の物凄いファン、というわけでは全然ないのだが、その表紙絵のどうにも懐かしい感触が気になってついついこの図録を購入してしまった。
イラストレーター、真鍋博の作品は多くはSF絡みで目にしていた。最もお馴染みなのは星新一の文庫本表紙かな?他にも筒井康隆やE・E・スミスのレンズマンシリーズの文庫本表紙を手掛けており、そんなわけだから浅はかにもすっかりSF界隈御用達だとばかり思っていたが、この『真鍋博の世界』を読んだらまだまだ驚くほど幅広い活躍をされていた。
表紙絵でいうと早川から出ているアガサ・クリスティー作品の文庫本表紙は殆ど真鍋氏の作品なのらしい。図録では80冊にのぼるアガサ・クリスティー作品表紙が並べられているが、同様のモチーフながら全て差異がありクオリティはどれも高い、というのには驚かされた。真鍋氏のイラストレーターとしての高い技量とイマジネーションがこの80冊の表紙からグイグイ迫ってくる。
他に、サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』白水社版とかカポーティ―『カメレオンのための音楽』早川書房版とか、どこかで見たことのある表紙絵が真鍋氏の作だと知ってやはり驚いた。クラークの『幼年期の終り』創元版(地球を巨大な鳥が爪で掴んでいる絵)も真鍋氏だったんだなあ。
もちろん図録では表紙絵だけではなく、真鍋氏の多岐に渡る作品が収録されている。やはり最も目を惹いたのは1970年に大阪で開催された日本万国博覧会の様々なポスターだろうか。
1970年と言えばオレが小学校に上がりたての頃で、当時ガキンチョだったオレはこの万博に大いに興味を掻き立てられていた。しかし日本の最北端の片田舎に住むオレの貧乏一家が大阪くんだりまで旅行になんぞ行ける筈もない。そんなだったから、いつも雑誌の大阪万博特集を穴が開くほど眺め渡し、奇妙な形状をした各国パビリオンの数々に大いに夢を膨らませていた。だから今回真鍋氏による万博ポスターを見た時も、大いに懐かしみつつ、描かれたそれぞれのパビリオンがどこの国のものか殆ど覚えていた自分にちょっと驚いたりした。
真鍋氏のイラストのイメージはこの万博ポスターに代表される明るく軽やかで色彩感に満ちた未来像だった。もちろん真鍋氏の作品はそれだけにとどまるものではないが、軽妙極まりない筆致という部分では一致しているのではないか。今はもうとっくに過ぎ去ってしまったレトロフューチャーの未来。そんな懐かしい世界を『真鍋博の世界』で堪能したオレだった。