■がんばれ!チョルス (監督:イ・ゲビョク 2019年韓国映画)
筋肉ムキムキだが頭の中身がすっかりお留守な男と難病の少女とが出会い、可笑しな珍道中を繰り広げるという2019年公開の韓国製コメディ映画です。しかし実は二人の間には、とても悲しい過去が隠されていたのです。監督は良作コメディ『LUCK-KEY ラッキー』を撮ったイ・ゲビョク、主人公チョルスを『毒戦 BELIEVER』『ハイヒールの男』のチャ・スンウォンが演じております。
韓国料理屋に勤める主人公チョルスは剛健な体と精悍なマスクで町の人気者でしたが、頭がちょいとよろしくないという欠点を持っていました。ある日彼は謎の中年女性に拉致られ、病院で一人の少女と引き合わされます。白血病で闘病中のその少女セッピョル(オム・チェヨン)は、なんとチョルスの娘だというのです。身に覚えのないチョルスは何が何やら訳が分かりません。しかし、病院を脱走し何処かへと向かうセッピョルを目撃したチョルスは、ひょんなことからその旅に付き合うことになってしまいます。果たして二人の運命やいかに!?
知的障碍の父親とその娘というと映画『アイ・アム・サム』や、そのリメイク作であるインド映画『神さまがくれた娘』を思い出します。これらの作品は知的障碍者の親権と強い愛情とを描いた作品ですが、この『がんばれ!チョルス』はそれと全く違うアプローチで物語を描いていきます。まず、チョルスとセッピョルは二人ともお互いが親子であることを知らなかったんです。それは今まで隠されていたのですが、いったい何故だったのでしょう。そして二人の過去に何があったのか?が後半で明かされ、怒涛の展開を迎える事になるんですよ。それと併せ難病モノのテーマが加味されることになるんです。
おバカな言動と行動を繰り返すチョルスと、小さいけれどしっかり者のセッピルのキャラクターは対称的で、まさに凸凹コンビ。こんな二人が目的地の町で巻き起こすドタバタが可笑しくてたまりません。いつも頓珍漢なチョルスに呆れ果てながら付き合うセッピルというシチュエーションは微笑ましくありつつ、時に大爆笑させられます。しかし、地元のヤクザが二人を餌食にしようと迫って来るわ、警察が二人を怪しんで投獄するわ、二人の肉親が必死になって探し回るわで、あちらこちらに危機が待ち構えているんですよ。この辺りのハラハラ感やテンポの良さにすっかり引き込まれてしまいます。
ところが物語は後半、この親子の秘密が明かされた途端に、180度異なる悲痛なものと化してゆくんです。それはあまりに重く悲しい過去の事件が関わっていました。衝撃的なこの展開は「まさか」としか言いようがなく、本当に驚かされました。だからなおさらこの親子に深く感情移入してしまうし、応援したくなるんです。チョルスはおっちょこちょいだけれど一途な男だし、セッピョルは難病を乗り越えようと健気に笑顔を振りまきます。こんな二人の未来に希望がなければおかしいでしょうよ!?
こうして物語は単なる知的障碍+難病モノという枠を超えた、ウェルメイドな作品として展開してゆきます。それにしても韓国映画は例えコメディであってもこのような胸をざっくりえぐるエピソードを持ち込み、強烈なコントラストを見せるのが実に巧みですよね。そういった部分で大いに笑わせながらも、卑怯なぐらい泣かせる映画でもありました。娘さんのいる父親が観たら大号泣必至なので要注意!コメディとメロドラマのブレンドが絶妙に上手く、結果的に豊かなヒューマンドラマとして結実しています。陰影に富み緩急の自在なシナリオにきっと唸らせることでしょう。
それにしてもこんな物語にすらヤクザの皆さんが結構顔を出してちょいちょいお話に絡んでおり、韓国映画ホントにヤクザ好きだな!?とつい思ってしまいましたが、これはオレが単に韓国ヤクザ映画ばかり観ているせいかもしれない……。