ロッセリーニ、ゴダール、パゾリーニ、グレゴレッティ、合わせてロゴパグ。/映画『ロゴパグ』

■ロゴパグ (監督:ロベルト・ロッセリーニジャン=リュック・ゴダールピエル・パオロ・パゾリーニ、ウーゴ・グレゴレッティ 1963年フランス・イタリア映画)

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オレたちロゴパグ族!

「ロゴパグ」。それはパグ犬でもなく口パクのことでもなくバグったロゴのことでもない。ロベルト・ロッセリーニジャン=リュック・ゴダールピエル・パオロ・パゾリーニ、ウーゴ・グレゴレッティといったヨーロッパを代表する4人の監督・脚本により1963年に製作・公開された短編映画オムニバスである。タイトルの『ロゴパグ』とはこの4人の監督の頭文字を繋げたものなのだ(なんて安直なタイトル……)。

それにしても、ヨーロッパ映画監督作品など殆ど観ないオレがなんでまたこんな作品を観ることにしたのか。それはまーなんとゆーか、ヨーロッパ映画監督オムニバス観たぜ!っていうのカッコよくね?」と思ったからである。「いやこないだちょっとロッセリーニゴダールパゾリーニとグレゴレッティが監督したオムニバスってェの観たんですがね」なんてシレッと言ってみたかったのである。

とはいえ、実はこの4人の監督作品自体、殆ど観たことがない。ウーゴ・グレゴレッティに関しては今まで名前すら知らなかった。そして一応全部観たことは観たんだが、まーそのー、えーっとー、なんかよく分かりませんでした……。

そんなもう初っ端から情けなさ過ぎる状況で文章を書き出しているのだが、とりあえずどんな作品だったかは書いておきたいと思う。映画知識の無さを晒すようなもんだが、構うもんか!だって……ブログのネタが無いんだよ!というわけで恥の上塗りをするべくそれぞれの作品を紹介してみよう!

第一話:純潔 Illibatezza 監督・脚本ロベルト・ロッセリーニ

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「殆ど観たことがない」とは言いつつ、このロッセリーニに関してはこれまで幾つかの作品を観たことがある。『無防備都市』『ドイツ零年』『戦火の彼方』『神の道化師、フランセスコ』がそれだ。いわゆるイタリアの「ネオレアリズモ」と呼ばれる作品のことを知りたくてヴィットリオ・デ・シーカルキノ・ヴィスコンティらの作品とまとめて観たのである。 で、分かったことは「ネオレアリズモって辛気臭くてビンボ臭い」ということだけであった……。

さてこの作品『純潔』だが、女性キャビン・アテンダントが主人公である。彼女がその仕事で立ち寄ったバンコクの街で、旅客機の客であったダサいハゲ親父に付きまとわれ迷惑しまくるというお話だ。今で言う「ストーカー怖い!ストーカーキモい!」というヤツである。こんなお話ではあるがスリラーやコメディというわけではなく、じゃあなんなんだろうなあ、というと煎じ詰めるならやはり「ストーカーのダサいハゲ親父がキモい」ということ以外特にテーマはなさそうな気がしてならないのである。

無理矢理こじつけるなら「銀幕に映る美貌の女優」を「映画を観る」という形で「覗き見ている」という「観客側の倒錯」を暗喩したもの、と言えないことも無いがもちろんこれはこじつけであるし、まあやはりダサいハゲ親父がキモいというリアルさをとことん追求した、これはこれでネオレアリズモ的な作品という事なのだろうと思う(違う)。

第二話:新世界 Il Nuovo mondo 監督・脚本ジャン=リュック・ゴダール

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ゴダールである。そのココロは「もう無理」である。いやーなんかもーゴダールの映画ってオレ駄目なんっすわー。『気狂いピエロ』がもう駄目であった。 よっくわっかんない。降参。その後もナントカいうタイトルさえ覚えていない映画に再チャレンジしてみたものの、これも見事に玉砕。無理。降参。退散。すいません。もう許してください。ゴダールも理解できないオレを汚い言葉で縦横無尽に罵ってください。私はあなたの犬です!踵で踏んで!踵で踏んで!……とまあここまで卑屈になってしまうほどにゴダールはオレにとって鬼門なのである。

そんなゴダールの短編『新世界』。なんとSFである。ゴダールのSFというと『アルファビル』が有名だが、もちろん観ていない。まあオレもSFファンの端くれなのでこれはいつか観る。というか実はブルーレイで既に買ってしまった。だから観るとは思うが多分また卑屈になり下がった負け犬根性剥き出しの感想を抱くであろうことは今から予想できる。踵で踏んで!踵で踏んで!!

で、この『新世界』、どういう風なSFかというと、「パリ上空での核爆発が引き起こした世界の終焉を描いた」作品なのだ。とはいえ、「上空で核爆発」があったにしてはパリ市民の皆さんはいつも通りの生活を営んでいる。パニックも死者も放射能の恐怖も無く、昨日と同じ今日が続いているだけだ。しかし細かく注視するならば、人々の行動に微妙な違和感を感じる。感じるけれども、それは些細な差異でしかない。

主人公はこのような状況の中で世界の終りを記録する、と独白するが、なにしろ世界は特に終わっていない。しかし、彼の恋人である女性の行動がいつもと違う。よそよそしく、かと思えば親密で、言う事もやることもちぐはぐだ。この物語は、こうした男女の愛の終りを世界の終りに暗喩したものであろうと大概すぐ気付かされるのではあるが、しかし暗喩の在り方としては安直で、実はなんかもっとちゃうこと言いたいんやないか!?そうやろ!?そうなんやろ!?と怪しい関西弁でゴダールさんに詰め寄りたくもなりはするのである。

もうちょっと冷静になって考えよう。そもそも「パリ上空での核爆発とはなにか?」ということだ。単純に考えるなら米ソ冷戦体制における核開発競争の恐怖ともとれるが、それよりも、フランスで1960年から始まった核実験を指したものである、ととるのが順当だろう。この映画は1963年公開だが、この段階でフランスは5回の核実験を行っており、うち2回は大気圏実験である。原子爆弾という人類の脅威以外何ものでもない大量破壊・大量殺戮兵器の実験が自国の力で行われているにもかかわらず、パリ市民はいつものような日常を生き、生活している。その無関心さと同時に、核爆弾という野蛮を内包しつつ存在しなければならない社会の異様さが、「人々の行動に微妙な違和感を感じる」こととして描かれているのだろう。

世界は確かに終わってはいない、だが、既にスイッチ一つで簡単に終わらせられる手段は手にしている。このような異常さが新たにもたらされた世界、それがタイトル『新世界』ということなのだろう。そして、こういった状況の中でのゴダール自身による「世界の終りの記録」なのだろう。

それとは別に主演の女優アレクサンドル・シュツワルト(『鬼火』『アメリカの夜』『愛と哀しみのボレロ』『フランティック』といった錚々たる出演作のあるカナダ人女優)がなかなかにエロくて、いやあ世界の終りにはこんな女子と過ごしたいですなあグフフ、などとしょーもないことで喜んでいたオレであった。

第三話:リコッタ(意志薄弱な男) La Ricotta 監督・脚本ピエル・パオロ・パゾリーニ

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出ました。ピエル・パオロ・パゾリーニパゾリーニと聞くだけでオレはなにか暗く深く重い溜息を「ふうう……」と漏らしてしまうのである。 パゾリーニの監督作品というのはタイトルだけで既に暗く深く重い。アポロンの地獄』。『豚小屋』。『デカメロン』。『ソドムの市』。どれも観たことは無いがタイトルだけで、そしてちょっと見てしまったスチール写真だけで、「どうもすいません許してください許してください」とヤクザに睨まれた小市民の如く萎縮してしまうのである。きっと人間の暗く汚く醜く爛れきった本性をこれでもかこれでもかと映像に叩き付けるタイプの映画の人なんじゃないか、と観たことも無いくせに勝手に思い込んでいる。惨殺されたという謎の死も怖い。怖い。パゾリーニ怖い。

そんなパゾリーニの短編『リコッタ(意志薄弱な男)』であるが、これがあにはからんや、ちょっとしたコメディなのだ。まずなんといっても主演がオーソン・ウェルズってェ段階で「おお」と思わせる。彼が演じる映画監督が、キリストの磔刑シーンを描く、というのが物語のあらましとなるが、配役のある男というのが貧乏こじらせ過ぎた奴でいつも腹を空かせており、撮影の合間にあの手この手で食べ物を確保しようと奔走するのだ。そのドタバタの果てにある事件が……というのがこのお話なのだが、この物語自体よりも、映画内映画の俳優たちが、撮影の合間に古代ローマの服装でダラダラとダルそうに自堕落の限りを尽くす様が、じわりじわりと異様さを醸し出す作品なのである。この古代ローマな人たちの自堕落ぶりは、どこかフェリーニの『サテリコン』を思わす頽廃性に満ちており、やっぱしイタリア人、蛇の道は蛇どすなあ!ぶぶ漬け食べていきなはれ!などと怪しい京都弁で思ったりもするのである。

そういった頽廃性のみならず、高い芸術性も加味された作品でもある。作品では要所要所でキリストにまつわる宗教画を活人画(実際の人間が絵画と同じ衣装とポーズで絵画的な情景を演じる事)として、その部分だけパートカラーで描かれており(『ロゴパグ』自体はモノクロ映画)、観ていて思わずハッとしてしまうばかりか、ハッとしてグーとまでしてしまう有様なのである(byトシちゃん)。

ところでこの短編作品は「宗教を侮辱した」という理由でイタリア当局から没収・上映禁止、さらに裁判ざたにまでなった曰く付きの作品でもあり、これにより映画『ロゴバグ』は当初本国ではパゾリーニ作品抜きの3作品のみのオムニバスとしてタイトルも変え上演されたという。 

第四話:にわとり Il Pollo ruspante 監督・脚本ウーゴ・グレゴレッティ

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ロッセリーニゴダールパゾリーニと有名監督の名が連なるオムニバス『ロゴパグ』ではあるが、ラストを飾るウーゴ・グレゴレッティ監督に関してはいかなシネフィルの方であってもピンと来ないかもしれない。実はこのウーゴ・グレゴレッティ、略してウーゴっち、イタリアのTV畑の方なのらしい。日本公開作を探してみたが、『世界詐欺物語』というタイトルの1964年公開のオムニバス作品がある程度だった。ちなみにこの『世界詐欺物語』、ジャパニーズ・ボンドガールで名を馳せたあの浜美枝さんも出演している。

そんなウーゴっちによる監督作品のタイトルは『にわとり』。世界的有名監督の中でTV畑のウーゴっちがどんな健闘を見せてくれるのかが見どころだ。頑張れウーゴっち!ゴダールパゾリーニも怖くないぞ!……いややっぱりあいつら相当怖いけど!

短編『にわとり』はとある平凡なイタリア人夫婦が主人公となる。二人の子供がいるこの夫婦は果てしなく凡俗などこにでも転がっていそうな小市民であり、物語ではこの夫婦がTVを眺めドライブし買い物や食事をし、手の届きそうにない不動産物件に溜息を付く様が描かれてゆく。彼らの行動と生活と興味の中心にあるのはただただ大量消費であり、浪費であり蕩尽である。物語内で彼らの子供が「ブロイラーってなに?」と聞くシーンがあるが、これを通して資本主義社会における一般庶民のブロイラー的な飼い慣らされ方を揶揄したものがこの作品という事なのだろう。物語はこれらをコミカルにシニカルに描くこととなるのだ。

こうした内容は『ロゴパグ』作品内でも最も分かり易く単純に楽しめるものではあるが、メタファーの在り方が直接過ぎて深みに乏しいきらいがあり、やはり巨匠たちの作品と比べると含みの薄さが見えてしまう部分が残念ではある。とはいえテンポの良い軽快さはこってりした作風の重鎮の続いた後の軽いデザートとして及第点ではないだろうか。

とまあそんな『ロゴパグ』4作品でありました!これにて失礼!

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