ボウイ曲ミュージカル『ラザルス』のCDを聴きながら亡きボウイを偲ぶ秋。

2016年1月、アルバム『★』の発表2日後に、この世を去ったデヴィッド・ボウイ。『★』からのセカンド・シングル「LAZARUS」と同名のミュージカル作品が、NY、ニューヨーク・シアター・ワークショップにて2015年12月~1月の間上演、デヴィッド・ボウイとエンダ・ウォルシュが脚本を手がけ、演出家イヴォ・ヴァン・ホーヴェが監督を務めたミュージカル作品となり、1963年のウォルター・テヴィス著『地球に落ちてきた男(The Man Who Fell to Earth)』がインスピレーション元となっている。劇中では新たにアレンジが加えられたボウイの名曲の数々が、シーンに見事に反映する形でキャストによってパフォーマンス。ロンドンでは2016年10月25日よりKING'S CROSS THEATREにて上演。10月21日に発売となる新作はミュージカル『LAZARUS』に関連した作品となり、ボウイ本人による、最後のレコーディング音源3曲(未発表音源)と表題曲「ラザルス」、その他はミュージカル・キャストのパフォーマンスによるボウイの楽曲を19曲収録予定。 (Amazon商品紹介より）

オフ・ブロードウェイ・ミュージカル『ラザルス』はボウイ最後のアルバム『★』収録の同名曲からタイトルをとり、2015年暮れにニューヨークで公演されたという。公演期間から分かるように、まだボウイ在命中に企画・公演されたものだ。
物語はボウイの主演映画『地球に落ちてきた男』を題に採り、主人公トーマス・ジェローム・ニュートンのその後を描いた内容なのだという。具体的にどういうものだったのかは分からないが、劇中に使用されたボウイ曲タイトルの数々を眺めていると、なんとなくその内容が想像できないこともない。沢山のボウイ名曲が散りばめられた『地球に落ちてきた男』。それはひょっとしたら本当の意味での「地球に落ちてきた男＝デヴィッド・ボウイ」を描く物語だったのかもしれない。
そしてオリジナル・ニューヨーク・キャストによりレコーディングされたこの作品は、実はボウイの死の翌日、2016年1月11日に録音されたものだったのだという（参考：インフォメーション | デヴィッド・ボウイ | ソニーミュージックオフィシャルサイト）。スケジュール自体が最初から決まっていた為の偶然の一致ではあるが、この時レコーディングに参加したメンバーの心境はいかなものだっただろうか。そんな背景の中で録音された作品のせいか、これが、とても、いい。ボウイ作品を他のアーチストが歌うカヴァーやトリヴュート作品とはまた違う、真っ直ぐとボウイ作品の核心へと近付こうとした曲になっているのだ。
カヴァー作品というのは、とかく「リスペクト」だったり「解釈」だったり、ボウイ愛は十分理解できても決してオリジナルを超えるものではない。ところがこのアルバムは、『地球に落ちてきた男』の物語をコンセプトの中心として、幾多のボウイ作品をそのコンセプトに基づいて編曲するという、非常にトータリティーの高いボウイ作品集となっているのだ。
もとよりボウイ作品は膨大な多様性を孕むがゆえに、ベスト・アルバムを聴いてもどうしても全体的なちぐはぐさを覚えるが、この『ラザルス』においては、全ての作品が相互に共鳴しあいながら一つの大きな流れとなって響くという、これまでのボウイ作品集では考えられなかった「ボウイという物語を紡ぐベスト・アルバム」という点が凄い（もちろん歌い手は別だが）。
ヴォーカル担当は男性と女性の両方が起用されるが、それにより作品相互があたかも語り掛けあっているかのような構成も驚かされる。そしてそのヴォーカルはミュージカル・シンガーということもあってか、ロック・シンガーが歌うのとはまた違う高く綺麗に通るヴォーカルで歌われており、これがまたしても新鮮な響きで胸に迫る。男性ヴォーカルの声質がボウイと似ている、というのも心憎い配慮に感じた。
また、CD2にはアルバム『★』に収められなかったボウイ最後の録音曲3曲が収録されている。それほど多くの曲が収録されていなかった『★』にこの3曲がなぜ入っていなかったのかは不明だが、あの痛恨のラスト・アルバムの後にまたこうしてボウイの新しい歌声が聴けるとはなんという幸福なのだろうか。
◎収録曲

CD 1:
1. Hello Mary Lou (Goodbye Heart) – Ricky Nelson
2. Lazarus – Michael C. Hall & Original New York Cast of Lazarus
3. It's No Game – Michael C. Hall, Lynn Craig & Original New York Cast of Lazarus
4. This Is Not America – Sophia Anne Caruso & Original New York Cast of Lazarus
5. The Man Who Sold The World – Charlie Pollack
6. No Plan – Sophia Anne Caruso
7. Love Is Lost – Michael Esper & Original New York Cast of Lazarus
8. Changes – Cristin Milioti & Original New York Cast of Lazarus
9. Where Are We Now? – Michael C. Hall & Original New York Cast of Lazarus
10. Absolute Beginners – Michael C. Hall, Cristin Milioti, Michael Esper, Sophia Anne Caruso, Krystina Alabado & Original New York Cast of Lazarus
11. Dirty Boys – Michael Esper
12. Killing A Little Time – Michael C. Hall
13. Life On Mars? – Sophia Anne Caruso
14. All The Young Dudes – Nicholas Christopher, Lynn Craig, Michael Esper, Sophia Anne Caruso & Original New York Cast of Lazarus
15. Sound And Vision – David Bowie
16. Always Crashing in the Same Car – Cristin Milioti
17. Valentine's Day – Michael Esper & Original New York Cast of Lazarus
18. When I Met You – Michael C. Hall & Krystina Alabama
19. Heroes – Michael C. Hall, Sophia Anne Caruso & Original New York Cast of Lazarus
CD 2:
1. Lazarus – David Bowie（アルバム『★』より）
2. No Plan – David Bowie ※
3. Killing a Little Time – David Bowie ※
4. When I Met You – David Bowie ※
※デヴィッド・ボウイ最後のスタジオ・レコーディング楽曲収録