バンドデシネ2作〜『ルチャリブレ -覆面戦隊ルチャドーレス・ファイブ』『わが名はレギオン』

ルチャリブレ -覆面戦隊ルチャドーレス・ファイブ / ジェリー・フリッセン, ビル, 原正人

ルチャリブレ -覆面戦隊ルチャドーレス・ファイブ

負け犬ヒーローたちのゆる〜い戦いの日々!?古代アステカ文明のミイラの生まれ変わりを任ずる5人は、メキシコのプロレス・マスクをかぶり、ルチャドーレス・ファイブとして、人々の嘲笑に耐えながらも世界を救い続ける……。突如出現する怪獣、謎の宇宙飛行士、ライバルのフランス人ヒーロー! 覆面戦士たちに休息はない!

メキシカン・スタイルのプロレス、ルチャリブレは覆面レスラーが多いのが特徴だが、そのルチャのマスクを被った5人の自称ヒーローが、ロサンゼルスの街を舞台に活躍する!というコミカルな物語。とはいってもそこはバンドデシネ、アメコミのマスクド・ヒーロー・ストーリーとはかなり趣が違う。
5人のマスクマンはその辺の一般人だが、かなり自堕落な生活を送るしょうもない人たちだ。彼らがマスク姿で活躍する様も、正義をモットーに悪を討つ!といったものではなく、同じくマスク姿の別派閥の連中たちと小競り合いを繰り返している、といった程度のものなのだ。つまりアメコミ・ヒーローの中心的なテーマである「自警団としてのヒーロー」「善と悪の戦い」という要素が全く欠落しているのである。
これはどういうことかというと、様々な人種がそれぞれにセクト社会を持って構成されているアメリカの、そのセクトにあるチンピラ同士が抗争を繰り広げている様子をこの物語では描こうとしているからだろう。そのセクトは彼らのマスクの違いで分かり易く分離されるが、面白いのは彼らに「マスクを被らない表の顔」「マスクを被った裏の顔」という区分けが全くないということだ。なにしろマスクはセクトの象徴だから、表も裏もなくいつもマスクを被っているのは当たり前、ということなのだ(そしてセクトを抜けようとしたものがマスクを脱ぐ)。
敵役になるキャラクターも変わっていて、狼男、半魚人、フランス人怪盗団、宇宙飛行士、怪獣など、バラエティの富み楽しい。こういった具合に、同じマスクド・ヒーローを描きながらアメコミの表現とは違う方向にある、という部分でこの『ルチャリブレ』は面白かった。また、キャラクターもデフォルメが効いていて可愛らしく、色遣いも明るくて、日本のコミック・ファンにも受け入れられやすい作品じゃないかな。

ルチャリブレ -覆面戦隊ルチャドーレス・ファイブ

ルチャリブレ -覆面戦隊ルチャドーレス・ファイブ

■わが名はレギオン / ファビアン・ニュリ,ジョン・キャサディ,原正人

わが名はレギオン

ナチスが開発した史上最悪の吸血鬼兵器! ナチスルーマニアブカレストで遂行していた極秘プロジェクト、コードネームは「レギオン」。それは特殊な能力を持つルーマニア人少女・アナの力を利用し超人兵士部隊を作ろうという計画だった─第二次世界大戦前夜のイギリスと吸血鬼伝説が息づくトランシルヴァニアを舞台に繰り広げられる超一級のサイコサスペンス!

ナチの開発した吸血鬼兵器を巡り、イギリス諜報部、ルーマニアレジスタンス、ナチス・ドイツ、そして吸血鬼とが熾烈な争いを繰り広げるといった物語だ。そこでは極秘の諜報活動、決死の潜入作戦、奇怪な陰謀、銃弾と爆炎にまみれた戦闘行為が描かれ、その中から「人を自らの血で操ることのできる吸血鬼」の真相が徐々に明らかになってゆく。
ただし登場人物が多く、少々複雑な物語構成であるため、読み進めるのはちょっと根気が必要かもしれない。また、戦闘シーンはあるものの、どちらかというと陰謀術策を中心とした謎めいた展開が主となり、「ナチと吸血鬼」といったテーマから想像するような派手でシンプルな活劇を期待すると肩透かしを食うだろう。
ただどちらにしろ、「人を自らの血で操ることのできる吸血鬼」って軍事兵器としてそれほどのものではない気がするし、これでここまで大作戦が遂行されるかなあ、といった疑問も湧く。同じナチでオカルトならまだクトゥルーの神を呼び出しちゃう『ヘル・ボーイ』のほうが大風呂敷の広げ方では面白かったんだが。

わが名はレギオン

わが名はレギオン