サイモン・ペッグ主演映画2本観た〜『変態小説家』『ビッグ・トラブル』

■変態小説家 (監督:クリスピアン・ミルズ 2012年イギリス映画)


ジャック・ニコルソン主演で『恋愛小説家』という映画があったが、こちらは『変態小説家』である。変態の小説家なのか。変態小説を書く作家なのか。気になるところであるが、物語では実際は犯罪小説家ということになっている。主演は『ワールズ・エンド 酔っ払いが世界を救う!』『宇宙人ポール』のサイモン・ペッグサイモン・ペッグはオレのお気に入りの俳優だ。だからこの映画を観ようと思ったのだ。そしてそのサイモン・ペッグが一人部屋に閉じ籠り小汚いブリーフ1枚の姿で七転八倒する、といった映画なので、あながち変態的と見えないこともない。まあ原題は『A Fantastic Fear Of Everything』だから実は変態とは全然関係ないのだが。

サイモン・ペッグ演じる主人公ジャックは犯罪小説家なのだが、冷酷な殺人者のことを書いてる資料ばかり読み過ぎ、「自分も命を狙われているんじゃないか!?」という誇大妄想に至る。小汚い一人住まいのアパートで物音に怯え揺れる影に恐怖し神経衰弱の一歩手前まで追いつめられるジョン。そんなジョンはある日、ハリウッドの大物と会わなければならなくなったのだが、いかんせん着ていく服がない。「そうだ、コインランドリーに行こう…」意を決して表に出たジョンだったが…。

とまあ要するにパラノイアに取り付かれた男のドタバタを描く物語である。イギリスらしい暗く湿ったブラックユーモアが独特の風味を醸し出しているお話だ。サイモン・ペッグが髪振り乱し表情を歪め目を三角にし、あっちでわあわあこっちでわあわあやっている情けない姿をうっとりと愛でる、というサイモン・ペッグ・ファンにはえもいわれぬ愉しみに満ちた心ときめく映画でもある。逆に言えばサイモン・ペッグを知らない・興味の無い方には「ババッチイおっさんが一人で騒いでる変な映画」としか見えなくもないので注意が必要である。もちろん個人的には大層面白く観ることのできたが。

後半はなんとかコインランドリーに入ることのできたジョンの悪戦苦闘が描かれるが、なんとここでジョンが「殺人鬼恐怖症」ばかりか「コインランドリー恐怖症」であることが明らかになる。まあその原因があれこれ説明されるが、ジョンさんホント難儀な方なのね…。しかもある間違いで強力接着剤で手にナイフをくっつけたままだ!このナイフのせいで大騒動に発展し、さらにとんでもない危機に至っちゃうジョンさん!ジョンさんの明日はどっちだ!?

それにしてもサイモン・ペッグ、この作品もそうなんだが『バーク・アンド・ヘア』や下で紹介する『ビッグ・トラブル』みたいにブラックな味わいのコメディがホントに好きみたいだね。この作品では製作総指揮も務めてるぐらいだし。


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■ビッグ・トラブル (監督:ジャン=バティスト・アンドレア 2006年イギリス/カナダ映画)


サイモン・ペッグ作品でもう一本何か観てみようと思い、あれこれ探してみたら『ビッグ・トラブル』という聞いたことのないタイトルが。んーなんか地味そうだなあ地雷かなあなどと思いつつ観てみたら…うわあなにこれ、かなり面白いぞこの映画!?

ジャンルとしては犯罪モノ、それもブラック・ユーモアがたっぷり。主人公は作家志望ながら現在失業中のチャーリー(デヴィッド・シュワイマー)。家計は警察官である妻ペネロペ(ナターシャ・マケルホーン)の収入でやりくりしていたが、それでは情けないと探した仕事がコールセンター。そしてそこで知り合った同僚のガス(サイモン・ペッグ)に、チャーリーは「エロ神父恐喝計画」を持ちかけられてしまう。計画にはガスの元カノであるジョージー(アリス・イヴ)も参加、チャーリーは嫌々ながら引き受ける。計画当日、神父の家に行ったガスだが、そこで待っていたのは拳銃を持った男だった。発射される拳銃、そして家に飛び込んだチャーリーが見たのは血塗れで横たわる男の死体だった。

その辺のしょーもない連中が「絶対上手くいく」と目論んだ”単純な”犯罪計画だったが、不測の事態が次々に起こり、ボロの出まくった計画をなんとか軌道修正しようとして、さらに窮地に至ってしまう。単なる恐喝だった筈の計画なのに、次から次に死体が転がり、ヤバさは天井知らずになっているのに、今さら計画を止めることもできない。しかも警察には嗅ぎつけられ、おまけに仲間が裏切りを企てていたことも発覚し、泥沼の緊張状態は最高潮に達してゆく。

嘘、隠蔽、言い逃れ、裏切り、共謀、対立、攻撃、ギリギリの状況での人間心理が巧みに描かれた物語だが、実のところ同様なテーマを持つ他の作品と比べて優れていると言い切ることは難しい。なにしろオレはこのテの化かし合い騙し合いをメインとしたドロドロの犯罪心理劇映画が苦手なのであまり観ておらず、比較対象を挙げられないのだ。そんな自分がこの作品を面白く観られたのは、まず主人公チャーリーがごく普通の常識と知性と倫理観を持った男であり、なりゆきで犯罪に関わったものの常に良心の呵責を覚えているといった部分だ。描き方によっては「煮え切らない男」になってしまうが、アンモラルに徹した生粋の犯罪者というわけではない、という部分で感情移入が楽なのだ。

そしてガスの中途半端なダメさと小物感だ。ガスは愚か者だが、彼もまたギンギンに生粋の犯罪者という訳ではない。だからどこか哀れでもあり、同時に可笑しくもあるのだ。サイモン・ペッグのコメディ・センスはこんなキャラにぴったりであり、まさに彼だからこそ嫌みなく演じることができたのだろう。さらにもう一人の相棒となる元カノ・ジョージーは、グダグダの男二人の間で的確な状況判断を見せる、という頭の良さがキャラ立ちしていて、実に程よいコントラストを見せてくれるのだ。そして死体の多い犯罪ドラマだが笑いが適度で物語が重くない。適度などんでん返しもある。こういった部分できちんとエンターティメントしていた部分が楽しめた。


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