ある日突然「私は神なんです」と名乗る男が現れて、最初は「ああ、アホの人なんだ…」と思われてたのも束の間、あれこれ検証を重ねた結果、ホンマモンの神様と分かって世界中が大騒ぎ、というバンドデシネであります。
最初は「神様スゲエ!」と喜んでいた世界の皆様ではありますが、次第に「神様が怠慢こくから世の中がこんなに乱れてるんだ!責任とれ責任!」と被害者意識に凝り固まり、なんと遂には「最後の審判」ならぬ「神様の裁判」が開かれることになってしまうんです。前代未聞の大裁判には前代未聞の数の裁判官と前代未聞の数の弁護人が付き、「神の道義的責任」について喧々囂々やり合います。
そしてそれは「神に責任はあるか?」から「そもそも神とはなにか?」「人は神を裁けるのか?」へと議論は広がってゆき、収まるところを知りません。その間にもこの神様騒動にあやかって神様劇だの神様本だの神様アートだの神様テーマパークで儲けようと奔走する人たちまで現れる始末。そしてそこに導入された「神にも等しい知性」を持つ量子コンピューターは事態を治める事が出来るのか?…というお話。
作者のマルク=アントワーヌ・マチューは『レヴォリュ美術館の地下』や『3秒』が既に日本でも発売されているバンドデシネ作家。そういえばこの間、ロン・カリー・ジュニアの『神は死んだ』という小説を読んだばかりなのですが、あの辺の一神教の宗教を持つ人たちは神様が一人だけだから大変なのねえ、とちょっと思ってしまいました。
日本なんかやおろずの神なもんですから、あっちこっちに神様がいて、一個や二個神様が現れたからってそんな大騒ぎにゃならないと思うんですが、あちらの国だと唯一絶対神だから、周りから集まる期待やら願望が極大まで膨らむんでしょう。それと同時に、失望もまた極大まで至ってしまうのでしょう。たった一人の神様だと、あれやこれや、言ってしまえば宇宙の全てにおいて責任を負っちゃっているもんですから、そりゃもう大変です。神様はつらいよ!
神という存在、という形而上的な問題を描いた物語というよりも、偉大なる神の、その掌の中から一歩も出られない人々の狂騒する様を描いた物語ということができるんじゃないですかね。お話的にはテーマがちょっと客観的過ぎて(別に神様が現れたからって関係無いしなあ)、まあ普通にサラッと読むぐらいの興味しか抱けないお話だったのが残念。こんなのだったら星新一あたりが同じようなテーマでもっと面白いお話を書いていそうな気がするし。
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