神様なんて訴えてやるッ!?〜映画『OMG Oh My God ! 』

■OMG Oh My God ! (監督:ウメーシュ・シュクラ 2012年インド映画)


地震で自分のお店が潰れちゃった主人公の男が、「天災なんて起こした神様なんて訴えてやる!」と宗教団体相手に裁判を起こしちゃう、という珍妙奇天烈な映画です。しかしその裁判のさなか、なんとホントの神様が主人公を訪ねてやってきちゃう!?というトンデモ展開が待ち構えているんですよ!

主人公の名はカーンジー・ラールジー(パレーシュ・ラワル)、彼は神像を売る古物商ですが、実は神様なんて全然信じてない無神論者。そんな彼の日常が、地震により彼のお店だけが倒壊することで大きく変わってしまいます。保険に入っているから大丈夫、と思っていたら、契約では「天災被害は保険対象外」となっていることを知り、「だったら天災を起こした天とやらを訴えてやる!神様と裁判だ!」などと斜め上の方向に怒り狂っちゃうんです。そしてその訴状は全国の宗教団体に送られ、かくしてカーンジーと宗教団体との喧々諤々の法廷闘争が巻き起こりますが、そのカーンジーの前に奇妙な男が現れます。どうやらその男、神様のようなんですが、カーンジーは何故か気が付かなくて…。

この『OMG Oh My God ! 』、神様相手の裁判、なーんていうSFチックな寓話を通して、神と宗教にまつわる問題提起をしつつ、きちんと楽しめるコメディに仕上げた非常に秀逸な作品でした。天災を起こしたのは神様なんだから神様を訴える!という発想自体素っ頓狂なんですが、この「天災」という言葉、英語では「Acts of God」という立派な熟語で、「神の成せる業」即ち「不可抗力」という意味なんですね。だから考えようによっちゃあこの映画、テーマ自体がダジャレみたいな発想から成り立っているともいえるんですよ。勿論この映画はインドのヒンディー語映画ですから、ヒンディー語では「天災」がどういう表現なのかは分からないのですが、意外と近い表現だったりするのかもしれませんね。

しかし実際の所、いるのかいないのかわからない神様相手では裁判にはなりませんから、その神様を取り扱う様々な宗教団体を相手に裁判をする、という矛先の転換をしているのがこのお話のポイントです。ですから話の中心となるのは神の存在の有無やその責任、ということではなくて、「宗教って御大層なことばかり言ったりやったりしてるけど、ホントのところ人を救ってるの?」という部分にスポットが当てられるんです。つまり神を否定したり糾弾したりするのではなく、宗教というものの体質の在り方を問い掛けようとするのがこの物語なんです。この辺、神とか宗教とか、非常に扱い難いテーマを実に上手くエンターティメント作品として料理したなあ、と感じました。ただしその各種宗教団体を代表して裁判にやってきた教祖様の面々がどいつもこいつも怪しげで、実に可笑しいのと同時に「こんなやっちゃって大丈夫か!?」とちょっと心配になってしまった程です。

映画は前半カーンジーの演じるドタバタと、後半教祖様相手の法廷劇といった形で進行してゆきます。そしてこんな物語にアクセントを加えるのが天からやってきた神様の存在です。この神様、法廷で何か証言したりということはなく、「宗教の在り方」を論じあう法廷を興味深く見守り、そしてカーンジーに「そもそも宗教ってなんなのだろう?」ということを優しくアドバイスするんです。この会話を通してカーンジーは、無神論者なのにもかかわらず、胡乱な宗教団体相手に「正しい宗教の在り方」を論じることになり、それによりカーンジー自体が一人の教祖のように民衆から支持を集めてしまうんです。こういったどこか皮肉な逆転現象を描くところがまた秀逸な物語です。そしてこの「神様」を演じるのがアクシャイ・クマール。彼独特の鷹揚な演技は、神様役が実に似合っていて素敵でした。人と神と宗教の関わりを描くこの物語は、宗教の国インドらしい物語として高く評価できるでしょう。