ルーヴルの亡霊たち / エンキ・ビラル

ルーヴルの亡霊たち (ShoPro Books)

ルーヴル美術館コラボコミックプロジェクト第3弾!! 美術品に取り憑いた22の亡霊……圧倒的な画力で綴る死者たちの物語。 パリのルーヴル美術館が、コミックという表現方法を通じて、より幅広く世間にルーヴルの魅力を伝えるため企画した《ルーヴル美術館BD(ベーデー)プロジェクト》。『氷河期』『レヴォリュ美術館の地下』に続く第3弾としてお届けする本作『ルーヴルの亡霊たち』を手がけるのは、独特の退廃美を持ったスタイリッシュなアートワークで、日本でも多くのクリエイターに影響を与えているBD界の奇才エンキ・ビラル。ルーヴルの収蔵作品に取り憑いた22体の亡霊たち……彼らが生前にたどった数奇な運命を、美しいイラストと硬質な文章で描きだします。巻末には作品リスト、美術史家・小池寿子氏による解説を収録。

ルーヴル美術館にさまよう22体の亡霊――。『モンスター』で名高いバンドデシネ界の鬼才、エンキ・ビラルの新作『ルーヴルの亡霊たち』は、バンドデシネを通じてルーヴル美術館の魅力を伝えようとする「ルーヴル美術館BDプロジェクト」の一冊として刊行された。ちなみにこの「ルーヴル美術館BDプロジェクト」はこれまでに『氷河期』(作:ニコラ・ド・クレシー)『レヴォリュ美術館の地下』(作:マルク=アントワーヌ・マチュー)『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(作:荒木飛呂彦)が邦訳されている。

しかしこの『ルーヴルの亡霊たち』は実質的には"コミック"ではない。プロジェクトを依頼されたエンキ・ビラルルーヴル美術館でインスピレーションを得て撮影した22の美術品(回廊や部屋なども含む)の写真に、彼のイマジネーションによって浮かび上がった亡霊たちの姿をアクリル絵の具・パステルで書き加え、それら亡霊たちの来歴を文章でしたためた形の作品、となっている。だからバンドデシネを期待して買われるとがっかりするかもしれないのでご注意を。実はオレも最初「え、文章メイン?」と分かって戸惑ったが、実際読んでみるとエンキ・ビラルならではの陰鬱さと美意識が伺われてこれはこれで楽しめた。

それら美術品の亡霊たちには、それぞれに名前と、出生時の身長体重が付加され、彼らの生まれてから死ぬまでと、そしてそれら美術品とどのような因縁があったかが記されている。それはあらゆる時代の、あらゆる国の、あらゆる人種の人々の、生と死の物語だ。それらは全て作者エンキ・ビラルの創作だとはいえ、有史以前から生まれ、生き、そして死んでいった、膨大な数にのぼる人間の、その中のどれかに、ここで記された物語とよく似た生涯を生きた者がいたのではないか、とふと思わされてしまうのだ。

それはまた、美術品ひしめくルーヴル美術館の中に、混沌と暗黒のヨーロッパが辿った血塗られた歴史を見出し、そこで死んでいった者の亡霊を証人として、名も無き市井の者たちにとってのヨーロッパ史を改めて語ろうとした試みだということができるかもしれない。ここにはあまりにも多くの死がひしめいている。そして亡霊たちは、今日もまた夜のルーヴル美術館で自らの半生を語るのだ。

氷河期 ―ルーヴル美術館BDプロジェクト― (ShoPro Books)

氷河期 ―ルーヴル美術館BDプロジェクト― (ShoPro Books)

レヴォリュ美術館の地下‐ルーヴル美術館BDプロジェクト‐ (ShoPro Books)

レヴォリュ美術館の地下‐ルーヴル美術館BDプロジェクト‐ (ShoPro Books)

岸辺露伴 ルーヴルへ行く (愛蔵版コミックス)

岸辺露伴 ルーヴルへ行く (愛蔵版コミックス)