クラフトワークのリマスターBOX-SET買っちまった

ザ・カタログ(ボックス・セット)

ザ・カタログ(ボックス・セット)

クラフトワークの8枚組デジタル・リマスターBOX-SETである*1。去年リリースされていたのは知っていたのだが、クラフトワークがオレの中ではあんまり旬じゃなかったのと、リマスター自体に興味が沸かなかったので購入は見送っていたのだ。値段も高かったしね。
しかしこの間何かのきっかけで試聴した所、リマスターどころか殆ど別物のような音の響きをさせていてびっくりし、これはヤヴァイとばかりに逆上気味に購入してしまったのである。そしてアマゾヌから届いたのは、紙ケース入の8枚のCDとLPサイズのアルバムごとのブックレットがLPサイズの化粧箱に収められた豪華BOX-SETなのであった。勿論その音は試聴した時に感じたとおり、あたかもリミックス盤を聴いているかの如き新鮮なものに生まれ変わっていた。

ところでこれはあんまり誰も言わないことだが、そもそもこいつらのアルバム・コンセプトというのは基本的にどこまでもナメきっているものなのではないかとオレは思う。だいたいアルバムタイトルなんて日本語でザックリ意訳すると「どおろのうた」だの「ほおしゃのうのうた」だの「でんしゃのうた」なのである。さらに「ろぼっとのうた」それから「ぱそこんのうた」お次が「てくのぽっぷ」最新アルバムは「じてんしゃのうた」なのである。だいたい”クラフトワーク”というバンド名自体ドイツ語で「はつでんしょ」という意味なのである。ナメている。本当にナメている。
こうして書くとこいつらアホなのか?としみじみ思ってしまう。そしてこんなアホアホな連中なのにもかかわらず、世界を代表する有名な電子音楽アーチストでありテクノ・スターなのである。う〜む、テクノってそれ自体がやっぱりアホのやる音楽なのか?…な〜んていうのは勿論冗談。無機的なものばかりをテーマに選び、人間性とか肉体性からどこまでも距離を置くクラフトワークのそのコンセプトは、逆に人間性と肉体性への透徹した批評なのだ。
以下にざっとアルバムの紹介をするけれど、YouTubeの動画音声は今回のリマスター盤のものというわけではありません。

アウトバーン (オリジナル盤は1974年発表)

アウトバーン

アウトバーン

「どおろのうた」。ドイツの高速道路「アウトバーン」を走行している様子を曲にしたのである。《すぴーどあっぷ。すぴーどあっぷ。くらくしょんぷっぷう。ふうけいがぐんぐんすぎるよ。はやいなはやいなたのしいな。》なんかそういう曲だと思えば良いのである。この『アウトバーン』で既にクラフトワークの前衛性と革新性、そして聴いているといつの間にか涅槃の彼方へと蝶々になってヒラヒラと飛び立ってゆく危険性が満載になっており、今聴いても古さを全く感じさせない稀有な名作であると言わざるをえない。

放射能(ラジオ-アクティビティ) (オリジナル盤は1975年発表)

放射能(ラジオ-アクティヴィティ)

放射能(ラジオ-アクティヴィティ)

「ほおしゃのうのうた」。曲の内容は「がいがあかうんたあ、ばりばりばりばり」とかそういうのばっかりである。そしてこれもまた、原子核の周りを永遠に回り続ける電子のように、どこまでも止まることのない永久運動のような音を聴かせる。そしてその反復する音の波が聴くものを次第に法悦に満ちた涅槃の境地へと誘うのだ。このスタイルはその後の『ヨーロッパ特急』で完成形を見せることになる。

■ヨーロッパ特急(トランス・ヨーロッパ・エクスプレス) (オリジナル盤は1977年発表)

ヨーロッパ特急(トランス・ヨーロッパ・エクスプレス)

ヨーロッパ特急(トランス・ヨーロッパ・エクスプレス)

「でんしゃのうた」。オレがクラフトワークと出会ったのは高校生の頃に聞いたこのアルバムからだった。そしてこの『ヨーロッパ特急』こそは人類が生み出した最も危険な音楽アルバムの一枚であることは間違いない。なぜ危険なのか。それはアルバムの1曲目とラスト曲のタイトルに「エンドレス」という言葉が使われているように、クラフトワークは、『トランス・ヨーロッパ・エクスプレス』という曲の中に、無限と、そして永遠を閉じ込めてしまったからだ。そしてこのアルバムこそがクラフトワークの最高傑作と言ってもいいだろう。《せんろはつづくよどこまでも。がったんごっとん。がったんごっとん。のをこえやまこえたにこえて。がったんごっとん。がったんごっとん。とんねるだ。とんねるだ。ぎゅいーんぎゅいーん。よーろっぱとっきゅう。よーろっぱとっきゅう。がったんごっとん。がったんごっとん。》ほぼこういったことを意味してるであろう電子音が、延々と、それこそどこまでも続くのである。そして聴いている者は、ヨーロッパ特急に乗って、どこまでもどこまでもヨーロッパ大陸を駆け巡っている錯覚にとらわれるのだ。決して停止することなく無限に、永遠に。まさにこの音こそが《トランスする=世界から遊離させる》音そのものなのである。

■人間解体(ザ・マン・マシーン) (オリジナル盤は1978年発表)

人間解体(ザ・マン・マシーン)

人間解体(ザ・マン・マシーン)

「ろぼっとのうた」。この頃から"ピコピコ・サウンド"が顕著になり始める。特にこの『人間解体』はこれまで以上にリズムが強調されている。曲の内容は「ろぼっとになりたいいいいいい」とかそういうのばかりで、「もう人間じゃなくていいんだ」というクラフトワークのコンセプトがはっきりと示された作品と言えるだろう。このアルバム以降、これまで「知る人ぞ知るクラウト・ロック・バンド」だったクラフトワークは徐々に知名度を上げ、「クールでオシャレなコンピューター・サウンド」として日本のTVCMに曲が使われるようにさえなったのだ。

■コンピューター・ワールド (オリジナル盤は1981年発表)

コンピューター・ワールド

コンピューター・ワールド

「ぱそこんのうた」。『人間解体』からのポップ路線が最も顕著になったアルバムだが、ただどうも音が軽くオモチャっぽくなりすぎて、リリース当時このアルバムは敬遠していた。クオリティは低くないんだが、これまでの"じんわりゆっくり狂ってゆく"雰囲気が希薄で、普通のエレクトリック・ポップにしか聴こえないのだ。とか言いつつ《ボクワオンガクカデンタクカタテニ》と日本語で歌われる「電卓」はやっぱり楽しい!

■テクノ・ポップ (オリジナル盤は1986年「エレクトリック・カフェ」のタイトルで発表)

テクノ・ポップ

テクノ・ポップ

「おんがくがとまらない」。リズム・ボックスとヴォイス・サンプリングを多用したこのアルバムは『コンピューター・ワールド』のオモチャ感覚を後退させながらもポップ路線は継承し、曲もよくまとまっており、悪くはない出来であるが、往時の凄みを知っているものにとっては、コンパクト&ポップな80年代型廉価版クラフトワークでしかない、という食い足りなさを感じてしまう。そして、この頃から認知され始めてきたテクノやハウスなどエレクトリックなクラブ・ミュージックと比べると、やはり音が古臭く感じてしまう出来だったのだ。ただし、今聴くと十分面白い音なんだけどね。

■THE MIX (オリジナル盤は1991年発表)

THE MIX

THE MIX

「りみっくす」。いわゆるベスト盤りミックスである。しかし1枚でクラフトワークが網羅できるというお得感はあるかもしれないが、やはり『ヨーロッパ特急』はオリジナルのフル・バージョンで聴いて欲しいし、なんといってもこの『THE MIX』の後に発表された大傑作『ツール・ド・フランス』の曲は収められていない!だからもしこれから初めてクラフトワークのアルバム購入される方はですね、この『THE MIX』と『ヨーロッパ特急』と『ツール・ド・フランス』の3枚を1セットだと自分を納得させて購入すればいいんだと思うわけですよ。

ツール・ド・フランス (オリジナル盤は2003年発表)

ツール・ド・フランス

ツール・ド・フランス

「じてんしゃのうた」。『エレクトリック・カフェ』から17年ぶりのオリジナル・アルバム・リリースとなった今作だが、これが想像を遥かに超えた素晴らしい出来だった。いってみれば往時の『ヨーロッパ特急』を彷彿させる、無限ループの恍惚感を兼ね備えているのだが、さらにこの『ツール・ド・フランス』は、高揚感となによりメロディやシンセ音の美しさが際立っている。これはテクノ/クラブ・ミュージックに対するクラフトワークの返答とも言うべき作品であり、まさに復活クラフトワークにふさわしい堂々たる音ということが出来るだろう。しかし実は、このアルバムの後まだニューアルバムはリリースされていない…。

*1:全アルバム、と言いたいところだがクラフトワークはこれに収められたアルバム8枚の他に3枚の初期アルバムが存在しており、実験作扱いなのか現在リリースされていない。高校生の頃あの3枚がレコード屋でずっと売れ残っていたのをなんだか覚えてるなあ