諸怪志異(四)燕見鬼 / 諸星大二郎

諸怪志異 4 燕見鬼 (4) (アクションコミックス)

諸怪志異 4 燕見鬼 (4) (アクションコミックス)

古代中国・宋の時代を舞台にした、"怪し”のものを見る事ができる少年・燕見鬼とその師匠であり道師でもある五行先生・劉真人との異聞の物語。
第一巻『異界録』は1989年刊行で、3巻からこの4巻では6年の間が空いている。しかもこの4巻自体1993〜99年頃に週刊誌で発表されたものをまとめたもので、それに書下ろしが追加されている。それにしてもなんで今まで刊行されなかったのだろう。
ストーリーのほうは各話読みきりだったが、三巻目『鬼市』あたりから《未来を予言する書・推背図》を巡る妖術師や山賊、そして異形のものとの戦いを中心に語られる。…でまあこの四巻なんだが、どうも風呂敷広げたまま物語はおしまいにされてしまったらしい。そういえば諸星氏の代表作でもある『西遊妖猿伝』も、さあこれから天竺へ!といったところで終わっちゃったもんなあ。この「さあ、天竺へ!」の段階で巻数が十六巻、多分どっちのお話も、この調子で物語を展開してゆくのがしんどくなったのだろうなあ。「いつ終わるか判らない」疲労感が作者をして物語を放り投げさせてしまったのだろうか。
この四巻ではこれまで幻想や怪奇のない交ぜになった古代中国のほの暗い闇を訥々と描いていたのが、ここに来ていきなり『西遊妖猿伝』ばりにアクション満載の展開になる所がちょっと奇妙といえば奇妙。”天子”が生まれるときに姿を現すという《万年楼》の出現、気弾を使う美しい娘”小玉”、岩をも砕く《破山剣》を操る謎の女剣士”十四娘”、炎に祈りを捧げる怪しげな教団《喫菜事魔の徒》、そして予言書《推背図》を奪われた”燕見鬼”の運命やいかに!?…といった内容で、これはこれで面白いけれど、幽霊話、怪異談を描いていた三巻目までの方が深みがあったかも。
古代中国を題にとった諸星の漫画では、「荘子」のなかの寓話『混沌、七キョウに死す』を下敷きにした『無面目』、伝説の名士・太公望の若き日を描いた『太公望伝』を一冊にまとめた『無面目・太公望伝』が特にお勧めです。
無面目・太公望伝 (潮漫画文庫)

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