自分に瓜二つだという宝石強盗を探せ!〜映画『Jewel Thief』

■Jewel Thief (監督:ヴィジャイ・アーナンド 1967年インド映画)


ひょんなことから正体不明の宝石強盗を追う羽目になってしまった男がいた。なぜなら、その宝石強盗は彼にそっくりだったからだ!?というのが1967年公開のインド映画『Jewel Thief』である。監督はヴィジャイ・アーナンド、主演に『Guide』(1965)のデーヴ・アーナンド、ヒロインに『Sangam』(1964)ヴァイジャンティマーラー、その他インド美人女優がわんさか出てきて画面を楽しませる。

《物語》ボンベイに住むビナイ(デーヴ・アーナンド)には警察長官の父がいたが、本人は宝石鑑定師として暮らしていた。彼はある日パーティー会場でシャリーニ(ヴァイジャンティマーラー)という女から行方不明の彼女の婚約者と間違われる。激高するシャリーニになんとか別人であることを証明してみせるビナイだったが、話を聞くと婚約者アマールはビナイとどこからどこまでも瓜二つなのだという。折も折、ビナイの務める宝石店が強盗に遭う。さらに怪しげな女から「あなたは宝石強盗のアマールね!?」と馴れ馴れしくつきまとわれる。ビナイは警察長官の父と協力し、アマールに成り済まして強盗団に接触しようと試みるが、実はそれは巨大な陰謀の一端でしかなかったのだ。

『Jewel Thief』というタイトルから、最初はルパン3世のような大泥棒の物語だと想像していたのだが、そうではなくて大泥棒と間違えられ、その大泥棒を追う羽目になった男の物語である。よく似た二人の男の物語、いわゆるボディダブル・ストーリーはインド映画では本当によく見かけるテーマで、なにかインド神話にでも関係あるのかいな、とも思ったが特に調べたわけでもない。しかしボディダブル・ストーリーとしてこの作品が独特なのは、よく似た二人の男が別々に出てきて人々を混乱させるといった物語ではなく、最初から主人公ビナイだけしか登場せず、「よく似ているという噂の男」を延々と追跡し続けるという物語になっているという点だ。確かに証拠や証言は限りなく出て来るのに、当の本人は物語に全く姿を現さない。これはひょっとして…と物語の真相を想像してみるのもまた楽しいだろう。そしてそれはきっと裏切られるだろう。

この作品をもう一つ特徴付けているのは、その全編に渡るモダンな美術センスだろう。モダンと言っても60年代インドの製作作品なので、今見るなら古めかしいのは確かだが、セットにしても衣装にしてもまるでちょっと昔のヨーロッパ娯楽映画作品を見せられているようなモダンさを懸命に演出しようとしているのだ。さらに時々人間関係が把握できなくなるほど(単にオレが字幕追えてないだけですスイマセン)美人女優が湧いて出て、このサービス満点なゴージャスさはなんなのだろうと思ってしまった。調べたところこの作品、どうやらジェームズ・ボンド映画を念頭に置いて製作されたものらしく、つまりはボンド映画におけるヨーロッパのゴージャスさと、百花繚乱なボンドガールの充実さを映画の中に持ち込もうとしたのらしい。そう考えると宝石強盗団の謎の組織振りもなんだかボンド映画に出て来る秘密組織っぽいといえるのかもしれない。

とはいえ後半まではちょっと退屈したのも確かで、186分というインド映画お馴染みの長尺時間は、いつもならたいしたこともなく観てしまえるのに、今回はとても長く感じてしまったのは否めない。どうやらこれは作品の主眼とした「モダンなセンスをたっぷり楽しませる」という部分が今観ると別に新鮮に感じないこと、それとビナイとシャリーニのくっつくんだかくっつかないんだか分からない二人のロマンスをダラダラ見せすぎてしまったからなのではないかとも思える。謎の宝石強盗探しにしても、なんだかスカしたオシャレっぽさが緊張感を殺いでしまいまるで盛り上がらない。だがこれにしても真相が明らかになった後半から流れが変わり一気呵成に物語が進んでゆくのが心地いい。ある意味奇想天外で現実離れした真相であるのは確かだが、むしろこの奇想天外さこそが物語の目指したボンド映画の面目躍如であり、これを最初から登場させながら物語られていればもう少し膝を乗り出して観ていられたように思える。