『サンクスギビング』『コンクリート・ユートピア』他、最近ダラ観したDVDやら配信やら

サンクスギビング

サンクスギビング (監督:イーライ・ロス 2023年アメリカ映画)

クエンティン・タランティーノ+ロバート・ロドリゲスが製作した悪ノリ・アンソロジー映画『グラインドハウス』はオレも大のお気に入りの作品である。その後映画内で上映されたフェイク予告編『マチェーテ』『ホーボー・ウィズ・ショットガン』まで悪ノリで映画化しており、「やることアホやなあ」と大いに楽しんだのだが、またまたフェイク予告編から映画化されたのがこの『サンクスギビング』だ。

物語は感謝祭での惨劇から始まる。スーパーのセールに殺到した客たちにより暴動と強奪が起こり、多数の死傷者が出たのだ。そして数年後、近付く感謝祭に沸き立つ町で、住民たちが一人また一人と残虐な方法で殺されてゆく。その陰には「感謝祭での惨劇」に恨みを持つ謎の人物の復讐が隠されていたのだ。

冒頭の「感謝祭の惨劇」からアクセル踏みっぱなしのろくでもなさで、バカを描かせたらイーライ・ロスは本当に頼れる奴だなとほっこりさせられる。その後は学園を舞台としたティーンホラーとして展開するが安定感もたっぷり。多数の登場人物をきちんと交通整理しながら丁寧に描く手腕にはさすがベテラン監督の腕が光っていた。ホラーの割に警察もちゃんと働いており、「犯人は誰か?」というミステリもきちんと物語を牽引する。殺戮シーンはバラエティに富み景気良くて大盤振る舞いのえげつなさ、残虐だが笑えるセンスも小気味いい。細かく無駄なこだわりぶりも楽しかった。巧いしよく出来ていた作品で十分に楽しめたが、やはり続編が企画されているらしい!

コンクリートユートピア (監督:オム・テファ 2023年韓国映画

地震により廃墟と化した韓国の首都ソウルを舞台に、たった一棟だけ無事に残っていたアパートの住民たちが、住民以外の人間を排除すべく恐怖政治を敷くというディストピア映画。この物語の本当に怖い所は、大地震から何か月経とうがどこからも誰からも救助の手が差し伸べられていないという状況で、これはほぼ世界全てが壊滅状況であるということに他ならないのではないか。この状況下で「自分たちだけは生き延びる」と排外主義を取るのは至極当然の事だと思うし、それにより殺人も辞さないというのは古代ギリシャ寓話「カルネアデスの板」にあるように、非常事態におけるギリギリの選択なのではないだろうか。当然映画はフィクションとしてのグロテスクな脚色を加えているが、本質的な部分においてこの物語を「人間の醜さ」ととらえるのは違うだろう。むしろこの状況下で平時と変わらない「お気持ち」を持ち出そうとする主人公の嫁は最終的にコミュニティを滅ぼす存在だと思ったけどな。どちらにしてもこういった時には厳密さを求めるのではなく柔軟さも大事ではあり、その匙加減だろう。そして映画として面白かったかというとそれはまた別の話。

私がやりました (監督:フランソワ・オゾン 2023年フランス映画)

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30年代のパリを舞台に、貧乏こじらせた二人の女性が、やってもいない殺人事件の犯人になって注目を浴びお金を稼いじゃおう!と画策する犯罪コメディ。一見アンモラルなお話だが、背景には女性蔑視や性的暴力、女性の社会的地位の低さがあり、それを逆手にとって衆目を浴びようという、したたかであると同時にやむにやまれぬ女性たちの立場を描いた物語なのだ。主演を演じる二人の女優が非常に若く美しい女性で、この「若くて美人」であることを武器に物語が展開するというのも、ルッキズムやエイジズムといったものに対し裏返しの皮肉を浴びせていて面白い。とはいえ物語自体は実に軽やかに展開し、30年代パリの風俗や衣装の美しさで魅せてゆき、犯罪ドラマでもあるのに全く嫌味なく楽しく観られてしまう部分も好感度が高い。殺人事件の犯人になりすましちゃったら本当の犯人は?という後半の流れもきちんと考えられていて優れていた。なおこの映画は「「私がやりました」フランソワ・オゾン監督のノワールコメディですが… - レタントンローヤル館」のレビュー記事で興味を持ちました。元記事も是非ご一読を。

シアター・キャンプ (監督:モリー・ゴードン/ニック・リーバーマン 2023年アメリカ映画)

Theater Camp

Theater Camp

  • Molly Gordon
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経営難により存続の危機に陥っている子役専門の演劇スクールを舞台に、教師たちの奮闘とドタバタを描くコメディドラマ。この教師たちというのがいかにもオフブロードウェイ出身と思われるエキセントリックな人たちばかりで、子供たちもほぼセミプロのこまっしゃくれた子たちばかり。こういった癖の強い面々でコメディを成立させようとしているが、なんかこうマンハッタン島に住むアートかぶれの連中らしい鼻につく言動と行動がどうにもイラッとさせてくれて、ちょっと物語に乗れなかったな。ただねえ、一旦本番の演劇が始まると、悔しい事にやはり巧いんだよこいつら。