ロバート・ロドリゲス監督のSFスリラー映画『ドミノ』を観た

ドミノ (監督:ロバート・ロドリゲス 2023年アメリカ映画)

ロバート・ロドリゲス、とても好きな映画監督なんですよ。『デスペラード』『フロム・ダスク・ティル・ドーン』『パラサイト』『シン・シティ』『プラネット・テラー in グラインドハウス』『マチェーテ』『アリータ: バトル・エンジェル』、もうタイトルを挙げただけでも胸ときめく綺羅星の如き傑作揃いじゃないですか。

ロドリゲス監督作品のいい所は肩肘張らないB級感、ちょっとした馬鹿馬鹿しさ、丁度イイ具合のアクション、気取らず親しみやすい作風にあるんじゃないでしょうか。そんなロドリゲス監督の新作が公開されるってェんですからこれは黙っておられません。タイトルは『ドミノ』、主演をバットマン・シリーズのベン・アフレックが勤め、ウィリアム・フィクトナーアリシー・ブラガジャッキー・アール・ヘイリーが共演しています。

(ところで『ドミノ』という邦題の映画はトニー・スコット監督による2005年公開の映画『ドミノ』も存在しますのでお間違えの無いよう。ロドリゲス版『ドミノ』の原題は『Hypnotic』、意味は「催眠/催眠術」を指します。)

【物語】主人公は最愛の娘が行方不明となり心に重荷を負った刑事ローク。ある日彼は銀行強盗のタレコミを受け現場に急行するが、犯人と思しき男が周囲の者を意のままに操る姿に唖然とする。しかもその男は行方不明の娘の手掛かりをロークに残して逃走してしまう。ロークは残された手掛かりから催眠術師の女ダイアナの元に向かうが、そこでまたしても謎の男の襲撃を受ける。

とても面白かったです。二転三転する物語に見事に騙されました。なんと言っても物語に登場する「謎の男」の行動や目的がひたすら不可解で不気味なんです。この男はいったい何者なのか?なぜ娘の行方を知っているのか?なぜ自分をつけ狙うのか?そしてこの異様な力は何なのか?次々に湧き上がる疑問、ひたすら錯綜し謎が謎を呼ぶ展開、あっと驚く真相、どれもこれもとても楽しめるエンターティンメント作品として構成されていました。

この『ドミノ』も最初に書いたロドリゲス監督作品のいい所、「肩肘張らないB級感、ちょっとした馬鹿馬鹿しさ、丁度イイ具合のアクション、気取らず親しみやすい作風」がきっちりと踏襲され、スリルとサスペンスをたっぷりと披露しながら、安心して観ていられる心地良さがありましたね。心地よさといった点で言えばここ最近観た映画で一番よかったかも。映画の尺も90分程度、サクッと観られて「あー面白かった!」と言いながら劇場を出られるという、こういうのがいいんですよ。

物語的には「スティーヴン・キングが書きそうなB級SFスリラー作品」って感じでしょうか。キングがたまさか描くSFスリラー小説って、最高に面白いけど滅茶苦茶ベタなB級臭がするんですよね。いわゆるアメリカの60年代SF・TVドラマを思わせる着想とでもいうのでしょうか。とはいえこれだけだと何の映画なのか、何がどう面白いのか伝わらないような気もしますので、もうちょっと突っ込んで書きますが詳細を知りたくない方はここで読むのを止めておいてください。

実は物語の核心となる部分は原題『Hypnotic』で既に言い表されているんですよね。この「Hypnotic」による現実認識の変容、歪曲、最終的に何が真実なのか?どれが現実なのか?ということが全く分からなくなってしまうという不気味さ、これがこの作品の面白さなんですよ。後催眠暗示や強制言語という形でやSFやスリラー作品で用いられることがありますが『攻殻機動隊』における「脳ハッキング」が一番分かりやすいかな。それを『ドミノ』ではもっとサイキックな扱いで描いているんですね。

この「脳ハッキング」、実の所「ちょっと上手くいきすぎじゃないか!?」「これだとなんでもアリだろ!?」と思わないこともないんですが、それこそドミノ倒しみたいにポンポンとテンポよく物語が進んでゆくので気にならない、というかそこがむしろ楽しいんですよ。あの『インセプション』のパクリみたいな映像も、意味があるのかないのか分からないんですが、このある種馬鹿馬鹿しい程の外連味が、「ロドリゲスまたやってくれてるねえ!」と思わせて、この映画を支持したくなってしまうんです。

そういった部分で、クリストファー・ノーランを期待されるとがっかりするかもしれませんが、ジョン・カーペンターぽいノリが好きな方にはイイ具合に楽しめる映画だと思いますよ。