ザ・キラー (監督:デヴィッド・フィンチャー 2023年アメリカ映画)
『ドラゴン・タトゥーの女』『セヴン』のデヴィッド・フィンチャーが監督を務めたNetflix・劇場同時公開映画『ザ・キラー』を観た。出演はマイケル・ファスベンター、ティルダ・スウィントン。一人の殺し屋が主人公となり、最初に失敗した殺しの尻ぬぐいの為にどんどん危ない橋を渡ってゆくという物語である。計画進行中、常に「殺し屋の信条」を数え上げる姿に奇妙なペーソスがあり、単なるサスペンススリラーとなっていない部分がフィンチャーぽいと言えるかもしれない。劇中なぜだか延々ザ・スミスが流れている部分も変と言えば変で、やはりブラックユーモア作ということなのだろうか。
とはいえ物語はいたってシンプルかつ非常に観易くできている作品で、逆にフィンチャーがなぜこんな映画を?と思うのだ。これはフィンチャーがかつて手掛けたNetflix映画『Mank マンク』の手応えがあったからではないか。『Mank マンク』は「市民ケーン」の脚本家ハーマン・J・マンキウィッツを主人公とした作品だが、フィンチャーならではの高い完成度ではあったものの、劇場公開作品だとしたら少々地味だったろう。しかしNetflixでこの作品を制作することで、劇場公開作のプロダクションに煩わされることの無い自由さをフィンチャーに感じさせたのではないか。それがシンプルでTVサイズの物語である『ザ・キラー』を製作させた理由なような気がした。
65/シックスティ・ファイブ (監督:スコット・ベック、ブライアン・ウッズ 2023年アメリカ映画)
アダム・ドライバー主演、航行中の宇宙船がなんだか分かんないけど6500万年前の地球に不時着しついでに恐竜に襲われちゃう、というトンチキSF映画『65/シックスティ・ファイブ』観た!?SF設定はひたすらインチキだしドラマも平凡極まるのだが何も期待しなかった分適度に面白く観られた!こんなヘボヘボな映画なのにあんまり貶す気にならないのは、なんだかアクションゲームのムービーを観せられているような、ボーっと眺めていられるユルい楽しさがあったからなんだよな。まあなにしろ絶対何も期待しないのが肝心!
ロキ〈シーズン2〉(Disney+ドラマ)(監督:ジャスティン・ベンソン&アーロン・ムーア 2023年アメリカ製作)
『ロキ〈シーズン2〉』を観終わった。実は〈シーズン1〉はなかなか面白かったが、〈シーズン2〉が始まってすぐ例の「在り続ける者」がドタバタを演じ出すもんだからちょっと放り投げそうになった。とはいえ中盤から段々とフェードアウトしてきてイイ具合に『ロキ』の物語に戻り、安心して観終わることができた。ただどうもなぜ時間が枝分かれし過ぎるのがイケナイのかよく分からないといえばよく分からない。まあその辺りは深く考えないことにしとこう。ところで将来的に「征服者カーン」となるはずだった「在り続ける者」だが、「在り続ける者」役の俳優が問題を起こしてキャンセルになりそうで、言い方は悪いが逆にそっちのほうがよかったかな、という気がしている。
宮廷画家ゴヤは見た (監督:ミロス・フォアマン 2006年アメリカ・スペイン映画)
『アマデウス』監督ミロス・フォアマンが18世紀スペインを描く『宮廷画家ゴヤは見た』を観たがこれがなかなかに凄まじかった。この作品は加虐なスペイン異端審問とナポレオンによるスペイン侵攻の物語であり、変わりゆく歴史の中で翻弄される人々の数奇な運命を描く重厚なドラマなのだ。タイトルに世界的な有名画家ゴヤの名があり当然ゴヤも登場するが、どちらかというと狂言回し役。真の主人公となるのは狡猾で因業な修道士ロレンソなのである。このロレンソを演じるハビエル・バルデムの悪辣な演技がなにしろいい。同時に薄幸の令嬢を演じるナタリー・ポートマンの驚異の二役も目が離せない。ただし「家政婦は見た」みたいな邦題だけがちょっと難だな。