■ゴーン・ガール (監督:デヴィッド・フィンチャー 2014年アメリカ映画)
- デヴィッド・フィンチャーが『ドラゴン・タトゥーの女』(2011)以来久々に監督したサスペンス作品『ゴーン・ガール』を観た。
- 劇場で観るまで内容をなるべく知ることの無いようにしていたが、予告編からは「これはハメられた男の話なのだな」ということは予想できた。
- だからこの映画の興味の中心は、「男はなぜどうしてどのようにハメられたのか?」ということになる。
- もうひとつはハメられた男が嘘つきだった、ということも考えられる。いわゆる「信頼できない語り手」というやつである。
- そんなことを考えながら映画を観ていたが、実際観てみるとこれは実にフィンチャーらしい「神の如き完璧な計画を練りそれを神の如く完璧に遂行する人間のオハナシ」というものだった。
- それは例えばフィンチャー作品の『セブン』『ゲーム』に顕著なテーマだ。ただ、それだけなら「またこの手か」と思わせるが、この『ゴーン・ガール』がそれら作品と違うのは、その完璧な筈の計画が中盤から頓挫し、思いもよらぬ乱調へと突き進む、といった点だろう。
- その乱調が見せるものは、あまりに常軌を逸しているばかりに、ブラック・ユーモアの領域にまで突入している。前半だけでも相当な哄笑を孕んだ物語だったが、さらに後半から勢い付く「凍り付いたような黒い笑い」がこの作品の真骨頂となるだろう。
- さてこの作品を一言で言うなら「バカ男とクソ女の泥沼の諍い」ということになるだろう。ベン・アフレック演じる夫ニック・ダンはどこまでも愚鈍で、ロザムンド・パイク演じる失踪した妻エイミーは頭が切れ過ぎるばかりにキ印になってしまった女として描かれている。
- この愚鈍な男とキ印の女、即ちバカ男とクソ女は、客観的な描写をされているがために、観客には感情移入する部分が存在しない。どちらも共感できないのだ。
- 彼らは愚か者であり、その愚かさゆえに観る者を心胆寒からしめる。愚かさゆえに滑稽で、そして恐ろしいのだ。
- しかし、共感を廃したこれら登場人物たちの物語は、実に作り事らしい在り得ないような愁嘆場を見せるにせよ、同時に観る側にとってはどうでもいい、カンケー無い話になってしまっており、畢竟、バカとクソで勝手にやって欲しい気分にさせられる。
- この物語は言うなれば結婚や男と女の心の暗部を描いたものなのだろうが、なにもかにも暗部ばかり、愚かさばかりクローズアップさせたがるこの物語の話者は「性格くれえな」と思えてしまうのだ。
- 作品の質は一級で、きっと楽しめるものだろう。だが、こういったテーマの作品は、個人的にもういらないな、と感じた。
- そういった部分で、この物語もまた『ソーシャルネットワーク』の如きフィンチャー一流の技で作られたどうでもいい話、ということが出来る。
http://www.youtube.com/watch?v=aq8X4FUMvKo:movie:W620
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