娘の嫌疑を晴らすため異国の地を彷徨う父の姿を描いた映画『スティルウォーター』

スティルウォーター (監督:トム・マッカーシー 2021年アメリカ映画)

マット・デイモンって結構好きな俳優なんですよ。決してビジュアル的にイイ男というわけでもなく、実のところ少々イナタい匂いがしているんですが、その部分に「アメリカの男」のひとつの典型を見事に代表しているなあ、と思えるからなんですよ。「ジェソン・ボーン」シリーズや『オデッセイ』などのアクション・SF作品も好きですが、『レインメーカー』や『ヒア・アフター』の人間ドラマでもとてもいい味を出していました。

今回紹介する映画『スティルウォーター』、予告編からだとサスペンス作品のように思わされますが、実は『ヒア・アフター』のような人間ドラマが展開する作品なんですね。そしてこれが非常に優れた佳作として完成しているんです。共演として『リトル・ミス・サンシャインアビゲイル・ブレスリン、『ハウス・オブ・グッチ』のフランス女優カミーユ・コッタン。監督は『スポットライト 世紀のスクープ』のトム・マッカーシー

留学先の仏マルセイユ殺人罪で捕まった娘アリソンの無実を証明すべく、米オクラホマ州スティルウォーターから言葉も通じない異国の地へ単身渡ったビル。現地の協力者を得るも、ほとんどの地元民はよそ者のビルに口をきこうともしない。何者かの襲撃を受けるなど自らの身にも危険が迫る中、ビルはわずかな手がかりを頼りに前進していくが……。

スティルウォーター : 作品情報 - 映画.com

マット・デイモン演じる主人公ビルは田舎住まいの無学で粗野、やもめ暮らしの肉体労働者として登場します。彼の娘アリスン(アビゲイル・ブレスリン)はそんな彼とその環境に嫌気がさしフランスに留学したのです。ですから二人の関係は良好なものとはいえません。ビルはアリスンと面会するためにフランスに渡りますが、彼はフランス語が話せず、アメリカの田舎者といった風情の彼をフランス人はまともに取り合いません。この作品にはまず、こういったコミュニケーション不全による齟齬が描かれます。そしてビルは異国で途方に暮れてしまうのです。同じ図式の作品にロマン・ポランスキー監督による『フランティック』(88)という作品があり、やはり異邦の地フランスで彷徨う羽目になるアメリカ人を描いています。

そんな彼を助けることになるのが滞在するホテルで知り合ったフランス人シングルマザーのヴィルジニー(カミーユ・コッタン)です。彼女は通訳を買って出て、ビルが様々な場所で事件の真犯人捜しをするのに力を貸します。ヴィルジニーは知的な舞台女優で、いかにもフランス人といった性格やライフスタイルをしており、アメリカの粗野な田舎者であるビルとは真逆の性質を持つ人間です。そんな二人が協力し合う部分、価値観の違いから時に対立する部分がこの作品の面白さの一つとなります。

また、なかなか二人にロマンスが生まれない、ある意味定石外しの展開も新鮮に感じました。しかし、ヴィルジニーの小さな娘マヤとビルが心を通わせていくことで、ヴィルジニーも少しづつビルに心を許していくようになります。実の娘が収監された国に赴き、その異国で別の家族との家族関係が形成されるという人間関係の奇妙さ、しかしそれが異国人同士という微妙なバランスで成り立っているという不安定さ、その辺りにシナリオの妙を感じます。

舞台となるマルセイユはフランスで最も治安の悪い街として知られています。フランス映画『ディーパンの戦い』(05)でもスリランカ移民がフランスのこのような街に住み暴力的な事件に巻き込まれる様を描いていました。文明国であるフランスにも暗部はあるのです。そしてビルの娘アリスンは故郷を捨て新天地であるはずのこの街に越してきたばかりに事件に見舞われます。一方、アメリカで底辺生活を送るビルはこの街で愛を見つけることになります。こうしてこの作品は「安息の地とはどこなのか」を描くことになるのです。それは「ここではないどこか」なのか。それとも「愛する者のいる場所」なのか。では愛を失ったものはどこへ行けばいいのでしょう。この行き場の無さ、やるせなさがこの物語を一層切ないものにしているのです。