グリーンランド 地球最後の2日間 (監督:リック・ローマン・ウォー 2020年アメリカ映画)
ジェラルド・バトラーである。レオニダス王として100万のペルシア軍と戦い、『エンド・オブ』シリーズではシークレットサービスとしてアメリカとイギリスをテロから救い、『ジオストーム』では気象学者として気象異常から地球を救った男である。とにかくいろんなもんから救ってくれるという点でかつてのチャールトン・ヘストンのごとき頼れる男なのだ。そんなバトラーさんが今回相手にするのは地球を危機に陥れる巨大隕石なのだ。
突如現れた彗星の破片が隕石となり地球に衝突した。さらなる巨大隕石による世界崩壊まで残り48時間に迫る中、政府に選ばれた人々の避難が始まる。建築技師の能力を見込まれたジョン・ギャリティ、そして妻のアリソンと息子のネイサンも避難所を目指して輸送機に駆けつけた。しかし、ネイサンの持病により受け入れを拒否され、家族は離れ離れになってしまう。人々がパニックに陥り、無法地帯と化していく中、生き残る道を探すギャリティ一家が目にしたのは、非常事態下での人間の善と悪だった。
さて今回もバトラーさんが八面六臂の超人的な活躍で地球を危機から救うのか!?その剛腕で降り注ぐ隕石を次から次へと宇宙へ叩き戻すのか!?と思ったら実の所そういう映画ではなかった。バトラーさんはどこにでもよくいる市井の人でしかなく、ただただ家族を守ろうと右往左往するだけである。彼が持つたった一つの力、それは妻と子供を愛する力だけだ。地球滅亡まであと48時間というときに、愛の力だけでいったい何ができるのか?というのがこの映画のテーマでもある。
しかし「地球に巨大隕石が落下し人類滅亡の危機が迫る」というこの物語、あまりにもありふれ過ぎていて大丈夫なのか?なにか隠し玉でもあるのか?と思っていたら、やはり直球の天体衝突ディザスタームービーでしかない。しかし、降り注ぐ隕石と破壊される都市のSFXの禍々しい美しさ、災害が世界中に広がってゆく恐怖感や市民のパニック、しっかりしっとりと描かれる家族愛、生きるか死ぬかのハラハラ展開など、非常に丁寧に作られていて退屈させず鑑賞できるのだ。併せて主演のバトラーさんも妻役のモリーナ・バッカリンもいい演技を見せてくれて感情移入しまくりなのだ。
「天体衝突ディザスタームービー」というのはこれまでも山ほど作られてきた。『地球最後の日』(1951)、『メテオ』(1979)、『ディープ・インパクト』(1998)、『アルマゲドン』(1998)と枚挙に暇がない。それらは地球の危機に対し、科学合理主義であったりとか、軍事力であったりとか、あるいはマチズモでもって対処し打ち勝ってきた。しかしこの『グリーンランド』では、家族への愛というある意味ちっぽけで非力なものでしか対処しない、対処できていないのだ。
これは、科学も、軍事に代表される国家の力も、そしてマチズモですらも、もはや自分たちを守る力ではない、という醒めた諦観があるからなのではないか。そして最後に残ったもの、最後に信用でき身を預けることができるのは、人間関係の最小単位である「家族」だけなのだ。かつての「天体衝突ディザスタームービー」のド派手で荒唐無稽な展開と比べると当たり前すぎる展開を見せるこの作品が、どこかリアルで身に迫るのは、「信用できるものも身を預けることのできるものもない」という現代の不安の在り方にどこか通じ、それをえぐり出しているからではないだろうか。そんな事を思った作品だった。