遂に人類滅亡。そして……/『七人のイヴ II』

■七人のイヴ II / ニール・スティーヴンスン

七人のイヴ ? (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

月が七つに分裂した日から二年がたった。無数の月の破片の落下“ハード・レイン”による地球滅亡の危機に、人類という種を残すため、宇宙ステーションを核とした“クラウド・アーク”が急造され、選ばれた若者たちと生活に必要な物資、そして数々の人類の遺産が送りこまれている。そんななか予測どおり“ハード・レイン”が始まった。地球は死の世界と化し、人類の生き残りは“クラウド・アーク”の千五百人だけとなった。だが、彼らは思想の違いから二つの派閥に分裂していく。そこに彗星に向かった探査チームの宇宙船が巨大な氷塊とともに帰還するが―近未来宇宙開発ハードSF大作、第二弾!

人類は滅亡した。破砕した月の、膨大な破片が雨あられと降り注ぎ、地球を炎の惑星へと変えてしまったのだ。生き延びることが出来たのは、2年前この危機を察知し、宇宙ステーション「クラウド・アーク」に送り込まれた、たった1500人のみであった。

人類の滅亡と再生を描くハードSF作品、『七人のイヴ』全3巻の第2巻である。第1巻では巨大災厄を予知した人類が持てる限りの力を使い宇宙ステーション「イズィ」を人類救済のための箱舟「クラウド・アーク」へと作り変え、そこに選ばれた人々を送る様が描かれていた。そして第2部となるこの2巻では冒頭から遂に地球の大破壊と人類の滅亡が描かれてゆくことになるのだ。

この物語の特色としてほぼクラウド・アーク側の視点しか描かれないこと、また、破滅に際した人類のパニックを殆ど描かないことから、「地球滅亡」のシーンもスペクタクル的な描写は薄いだろうとは思っていたが、いざその「大破壊」が始まってみると、情緒性は抑えつつももはや地獄としか言えないその光景にはやはり息を呑まされた。変な言い方だが、「人類滅亡テーマ」はやはりSF小説の醍醐味たりうるのだ。

しかし、そこはやはりこの小説らしく、だらだらと滅亡の哀惜に浸ることなくすぐさま次のシークエンスに飛び込むところが凄い(なにしろ登場人物たちが「黙祷」を省略しちゃうのだ!)。次のシークエンスとは何か。それは地球亡き後、宇宙空間で1500人の人間が、災厄終了が予想される5千年後までどう生き延びるか、ということである。

クラウド・アークに生き延びたとて、生存の厳しさは変わることは無い。問題は山積みだ。まず、2年間という急ごしらえの施設であること、それにより資源が乏しいこと、破砕した月の欠片が隕石となってクラウド・アークにも襲ってくること、さらに常に宇宙線に曝される被曝する危険のあることなど、次々に危機的要素が迫りくる。物語では原子力エンジンも登場するが、その放射能漏れの災禍すら描かれる。急ごしらえの施設とスタッフ、それによる安全性の低下はどうしても否めないのだ。

そして最後に、最悪の事態を引き起こすのがクラウド・アーク内での政治的分裂である。第1巻では少ない期間と現実的なぎりぎりのテクノロジーのみという状況からどう人類がサバイバルしてゆくかを描いているという点においてアンディー・ウィアーの傑作SF小説『火星の人』を想起させられた。この2巻においてはよりクラウド・アーク内の人間関係が生々しくなり、その対立と抗争の様子はキム・スタンリー・ロビンソンの壮大なSFサーガ『マーズ』シリーズを一瞬思い出させる。だが、物語はそのさらに先を行き、あまりにも救いのない事態へと発展してゆくのだ。それは既に、宇宙空間における『蠅の王』の様相すら呈している。

地球滅亡というただでさえ絶望的な状況に、さらに追い打ちを掛けてなお一層の絶望が遺された人類に襲い掛かる。正直、ここまで過酷な展開を見せる物語だとは全く思わず、この第2巻クライマックスにおいては粟立つが如き慄然に打ちのめされることとなった。しかし、この物語はまだここでは終わらない。タイトル「七人のイヴ」の本当の意味が明らかにされる第3巻へと続き、さらにそれは、第2巻終了から遥か未来となる5000年後が舞台なのだという。その終章に何が待つのか、第3巻発売が楽しみでしょうがない。