『‟もしも″絶滅した生物が進化し続けたなら ifの地球生命史』を読んだ

‟もしも″絶滅した生物が進化し続けたなら ifの地球生命史/土屋 健 (著), 藤原 慎一 (監修), 椎野 勇太 (監修), 服部 雅人 (イラスト)

‟もしも″絶滅した生物が進化し続けたなら ifの地球生命史 (Graphic voyage)

古生物は、すでに絶滅しています。 しかし、もしも古生物が“何らかの理由で"絶滅を回避し、子孫を残したとしたら、いったいどのような姿へと進化を遂げるのでしょう? 古生代の、あの甲冑魚が滅びなかったとしたら。 中生代の、あの肉食恐竜が滅びなかったとしたら。 新生代の、あの哺乳類が海洋進出をしなかったとしたら。 この本では、そんな「ifの物語」を、超リアルなCG を駆使して展開してみました。

‟もしも″絶滅した生物が進化し続けたなら?

図鑑『‟もしも″絶滅した生物が進化し続けたなら ifの地球生命史』はそのタイトル通り 「もし絶滅古生物が絶滅をまぬがれそのまま進化を続けていたら、いったいどんな姿になっていただろう?」という〈if〉の世界をコンセプトに上梓されたものです。著者は『リアルサイズ古生物図鑑』シリーズで注目を浴びた土屋健。これは期待が高まりますね。

「生物の想像上の進化の姿」を描くこの図鑑、最初に思い出したのはドゥーガル・ディクソンの『アフターマン』シリーズでした。『アフターマン』シリーズは人類が滅亡5000万年後、さらに2億年後、地球の生命はどのように進化を遂げるか?を考察した科学ドキュメンタリーでした。それに対しこの『ifの地球生命史』は太古の昔絶滅した生物の想像上の進化形態がテーマとなります。

しかしそれはただ単に自由な想像で作られたものではなく、「これまでの研究によって明らかになっている進化の系統、生態、他の古生物たちとの関係、周囲の環境などの情報をもとに、専門家とともに 「この系譜で進化してきた古生物が、もしも、このまま進化を遂げたら、こんな種が登場したのではないか」 と“科学的思考実験"を行っ」ています。

こうして誕生した「ifの地球生命」は、例えば古生代からはアノマロカリス三葉虫、エダフォザウルス、中生代からはティラノサウルス、ステゴザウルス、トリケラトプス、そして新生代ともなると絶滅哺乳類を始め、ペンギンやセイウチの祖先、さらにイヌやネコの新しい進化の形態までが描かれることになるんですね。その数は全部で25体。

本当にいたのではないかと思わせる説得力

驚いたのはいかに想像上の産物とはいえ、その学術的な考察から「本当にいた」かのように思える生物ばかりなんです。もしかしたら化石が発見されていないだけで、実際はこのような生物が生きていたのではないか?と思えてしまうんですね。『アフターマン』のようなおそろしく突飛な生物は登場しないんですが、逆に「こういう姿に進化していてもおかしくない」という説得力があるんです。

とはいえ馴染み深い哺乳類の登場する新生代ともなると、途端に『アフターマン』的な奇異さが目を引く動物が登場します。ペンギンやイヌがこんな姿に進化するなんて!?最後の項目はネコの進化した姿なんですが、これはオマケ的に可愛らしさを狙ったんじゃないかな!?なにしろ〈if〉の世界を扱っていますから、どの生物も「異世界生物」ぽい楽しみ方ができるのもいいですね。

もうひとつ、興味を引かれたのは、「そもそもこれらの生物はなぜ絶滅したのか?」ということなんですね。その理由は定かではないにせよ、地質時代には数度の生物大量絶滅の時期があったということなんです。

生物学者らはこれまでに起きた5回の大量絶滅を特定している。4億4300万年前のオルドビス紀の終わり頃、推定86%の海洋生物が地球上から姿を消した。3億6000万年前のデボン紀の終わりには全生物の75%が絶滅した。2億5000万年前のペルム紀の終わりには史上最大の絶滅が起き、生物の96%が消えた。 2億100万年前の三畳紀の終わりには全生物の80%が姿を消した。最も有名な大量絶滅は6500万年前の白亜紀の終わりに発生した。このときは恐竜やアンモナイトを含む76%の生物が死に絶えた。他にも1万年前の、更新世の氷河期の終わりに起きたメガファウナ(巨大動物)の絶滅などもある。

地球を襲った5回の「大量絶滅」と人類の未来への警告 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)  

4億4300万年前から5度、それぞれ地球上の86%、75%、96%、80%、76%もの生物が姿を消すという〈イベント〉が起こっている、その数字も凄まじいですが、こうした大絶滅を繰り返してきた後に現在の生物相と、そして人間の世界があるわけなんです。なんだか気の遠くなりそうな話ですよね。しかし実は現代ですら環境破壊や乱獲により地球上の生物が絶滅し続けており、これから100年の間に半分以上の生物種が消え去るのではないかという研究結果もあるそうです。『ifの地球生命史』の絶滅生物の姿を眺めながら、現在絶滅しつつある生物とその原因となる人類の行く末にも思いを馳せてしまった、そんな本でもありました。

参考:『アフターマン』と『リアルサイズ古生物図鑑』