奴は武闘派エクソシスト!?/映画『ディヴァイン・フューリー/使者』

■ディヴァイン・フューリー/使者 (監督:キム・ジュファン 2019年韓国映画

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韓国はキリスト教信仰が強い国なのだという。2010年においてキリスト教徒の割合は29パーセント、それに対し仏教徒は23パーセントなのだそうだ。(iRONNA/なぜ韓国でキリスト教が爆発的に浸透したのか韓国映画を観るときに、このキリスト教信仰を足場にして考えると意外と見えてくるものがあったりする(もうひとつは儒教の影響だ)。韓国映画の持つ「苛烈さ」は、キリスト教(特にカトリック)が背景にあるからなのではないか、と思うことがあるのだ。まあ、知ったようなことを書いたけれども、韓国への知識以前にオレのキリスト教についての知識も大雑把なものなので、誤解している部分も多大にあるような気もしているのだが。

韓国映画『ディヴァイン・フューリー/使者』は悪魔祓い師をテーマにしたお話である。それも神父とキリスト教的な悪魔が登場するエクソシストのお話である。じゃあホラージャンルなのかと言うと、ただ悪魔祓いをするのではなくそこに格闘要素が絡んでくるのである。なんじゃいな、とは思うが以前観た韓国映画鬼手』も囲碁+格闘というハイブリッドな作品だったので、そういった面白さを追求した作品なのだと思われる。物語は突然片手に「聖痕(磔にされたキリストのように手から血が流れてくる)」が現れた格闘家とバチカンから派遣された神父とがコンビを組み悪魔に立ち向かう、というものだ。

その聖痕には悪魔を撃退する力があり、それにより格闘家ヨンフ(パク・ソジュン)はエクソシストであるアン神父(アン・ソンギ)に不承不承協力することになる。面白いのは主人公ヨンフが幼い頃父親を喪った恨みから神を信じておらず、そんな彼に聖痕が現れてしまうということである。そのためこのテのお話によくある「信仰の正しさ」を強調し過ぎることを回避している。むしろ強調されるのは「親子の愛」だ。ヨンフは彼が手助けすることになるアン神父に次第に喪った父の面影を見出し、頑なだった自分の心を解きほぐしてゆく。また、ヨンフの強力なサイキックパワーの背後には、亡き父の愛が係わっていることも描かれてゆく。「神の愛」ではなく「親子の愛」を強調する構成の在り方がこの作品をシンプルなエンタメ作品として楽しむことを可能にしている。

一方、魔族の代理人であり悪の中枢に鎮座している男が若き実業家ジシンだ。「悪魔の手先の正体は得体の知れない若造の実業家」というのは意外と韓国人の市民感情をくすぐるものがあるのかもしれない。自身の経営するクラブの地下に魔族を奉る祭壇を設えおどろおどろしい祭儀を執り行うシーンなどはホラー風味たっぷりでなかなかの見せ場だ。このジシンを演じるウ・ドファンの酷薄なキャラクターがこの物語をさらに盛り上げてくれる。また、悪魔に取り憑かれた人々の異様な行動は映画『エクソシスト』そのもので、あの作品の不気味さと緊張感を巧く再現していた。

シナリオ面では幾つかの面で練りこみ不足を感じた。まず、ジシンの正体と所在は最初の悪魔祓いで判明したはずで、ここが取りこぼされている。ヨンフとアン神父を対立させる陰謀も中途半端であり、これに係わった魔族と思われるプロモーターもいつの間にかいなくなってしまっている。最大の瑕疵は格闘要素がクライマックスを除き殆ど無かったことだ。そもそもヨンフには聖痕という最大の武器があるので、さらに格闘までさせるのは余計にも思えるのだ。この辺、聖痕で倒せる敵と格闘で倒せる敵の属性を分けるべきだったんじゃないか。

とはいえ、主演3人の魅力や過激過ぎないマイルドなホラー描写、しっとりと語られる「親子の愛」の描写の良さなどから、充分に楽しめる作品であった。続編もありそうなので、次はさらにパワーアップしたヨンフとアン神父の戦いを観てみたい。 エクソシストというテーマを中心としながらそこに「親子の愛」を代入する物語の在り方にはキリスト教儒教とのせめぎ合う韓国らしさがあったような気がした。

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