暴力と不安に満ち溢れた"悪魔祓い"ホラー・コミック『アウトキャスト』

アウトキャスト (1) (2) / ロバート・カークマン (著), ポール・アザセタ (イラスト)

アウトキャスト 1 (GRAFFICA NOVELS) アウトキャスト 2

幼少期から抱えているある“トラウマ"のため、故郷で人目を避けて暮らしている青年カイル・バーンズ。ある日、街で“悪霊に取り憑かれた少年"の噂を耳にしたカイルは、悪魔祓いとしても名高いアンダーソン牧師のもとを訪ね、自分の過去とも深い関わりのある悪霊の存在と対峙していくことになる。自身の運命のみならず、世界の命運をも左右する深遠なる存在の正体は!?カイルが導かれるその先にある、驚愕の真実とは!?

人気ドラマ『ウォーキング・デッド』の原作者、ロバート・カークマンによる最新コミックは"悪魔憑き"がテーマだという。

「悪魔憑きなあ。神と悪魔の戦いでエクソシストキリスト教ってことですか。まあ、なんか、古臭いよなあ。今更って感じだよなあ」……そんなことを思いつつ、なんとはなしに本書を手に取ってみた。

案の定、冒頭から"悪魔憑き"の少年を、神父がお祓いしている。熾烈な攻防を経て、悪魔祓いされた少年の口からは悪魔と思しきモニョモニョした黒い"何か"が溢れ出し暗闇へと消えてゆく。「はいはい、そのまんまですねえ」想定通りの展開に若干白けながら読み進めたのだが……この物語、何かが違う。単なる"悪魔祓い"だけの物語ではない、暗く、不安に満ちた"何か"が進行している。

「何かが違う」と感じさせたその"何か"は、冒頭から描かれる奇妙に複雑な人間関係と、社会不適合者として生きる主人公青年の、いつも物憂く悲しげな態度だ。主人公の名はカイル。彼は"悪魔祓い"の能力を持つが、何故そんな能力があるのかは本人も分からない。そして彼は家庭内暴力を巡る二重の暗い過去を持っており、ひとつは母親の植物状態という形で、もうひとつは裁判所命令により愛する妻と娘から引き離されるという形で、彼の現在を苛んでいた。

「何かが違う」と感じた二つ目は物語全編を覆う暴力の影だ。主人公をはじめどの登場人物も、過去又は現在に何がしかの暴力の洗礼を受け、あるいは行使し、それにより肉体のみならず心も深く傷ついていることが描かれる。暴力により人間関係を引き裂かれ暴力により孤独と不安の中にいる。これにより物語全体が常に暗く寒々とした雰囲気に包まれ続ける。ここからは単にホラー作品であることの枠を超え、暴力に満ちた社会で生きざるを得ない人間の業すら感じることが出来る。

「何かが違う」と感じた三つ目は、読み進むうちに、実はこれは単純な"悪魔祓い"のは物語ではないらしいと気付かされることだ。冒頭から登場する神父は、キリスト教的な、いわゆる神との対立項としての"悪魔祓い"であるとミスリードさせる目的の存在だったことが分かってくるのだ。では……主人公カイルと神父が"祓っているモノ"は何なのか?二人を付け狙い、徹底的な暴力で応酬する"憑りつかれた者たち"は何者で、その目的は何なのか?さらに、主人公カイルだけがなぜ特殊な能力を持ち、"憑りつかれた者たち"に付け狙われるのか?

こうして様々な謎が散りばめられ、それが少しづつ明らかにされ、最初は在りがちな"悪魔祓い"の物語だと思わせていたものが次第に町一つを飲み込む異様な暴力の物語へと発展してゆくのである。まあジャンルや似た設定の映画の名を出せば「ああ」と思われる方もいるだろうからネタバレは避けるが、それでも十分に新鮮かつ冷え冷えとした不安を味合わせてくれる優れたコミックの登場だと言うことができるだろう。なお、実はこの作品、同タイトルでドラマ化しておりネトフリあたりで観られるので「コミック読むのもかったるい」という方はドラマのほうもどうぞ(とか言いつつ、オレはまだドラマ観て無いんだよねー)。

アウトキャスト 1 (GRAFFICA NOVELS)

アウトキャスト 1 (GRAFFICA NOVELS)

 
アウトキャスト 2

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