韓国90年代、14歳女子の多感な日々。/映画『はちどり』

■はちどり (監督:キム・ボラ 2018年韓国・アメリカ映画)

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14歳の少女・ウニの多感な日々を描いた韓国映画『はちどり』を観た。2018年製作の本作は日本でも今年6月に公開されて話題を集め、いまだにあちこちの映画館でロングラン公開されている。オレは最初ノーチェックだったのだが、最近韓国映画を多く観るようになったこともあり、この作品がまだ公開されている事を知って、観てやろうじゃないかと思ったのだ。

映画『はちどり』は1990年代の韓国を舞台にしているという。観る前に予習したのだが、この時期韓国は空前と言っていい程の経済成長を遂げ、人々の生活が徐々に変わっていった時期であったのらしい。生活が変わると、生き方や考え方も変わってくる。そういった、ある意味変遷期にあった韓国で、平凡な家庭の14歳の中学生少女はどのような生を生きたのか。これが『はちどり』の物語のテーマとなる。

主人公の名はウニ(パク・ジフ)、餅屋を営む両親の元、三人きょうだいの末っ子として生まれ、今は14歳の中学生だが、勉強はあまり好きではなく、漫画を描くことを趣味としている(ちなみに左利き)。物語で描かれるのはそんな彼女のありふれた毎日だ。共に暮らす両親、兄・姉との愛憎と対立、ボーイフレンドや友人たちとの楽しい日々と突然の仲違い、後輩女子からの告白、クラブに行ってみたり煙草や万引きをしたりの悪い体験、等々など。そんなありふれた毎日の中、ウニは飄々と生きる塾の女性講師へ憧れと信頼を寄せ始める。

映画は徹頭徹尾14歳女子の平凡な日常が淡々と描かれることになる。そして特別に強烈な映画的事件はクライマックスを除き殆ど起こらない。なので、かつて14歳女子だったこともなく、14歳女子に特に心情的共感が存在せず、実のところ14歳女子に別段関心も無い自分にとっては、ただ「ヘェー韓国の14歳女子ってこうなんだー、日本とあんまり変わらんかもなー」となんだかぼんやり観てしまった。ではかつて14歳男子だった自分を重ね合わせみるとどうかというと、「まーこんなもんだったかもねー」と思わないでもなかった。ただそれも、「14歳ってのはまだ子供でもあり既に思春期でもあるから、あれこれ心が不安定なんだよね」程度のものだろうか。だから「14歳あるある物語」みたいなもんだと思って観てしまった。

確かに90年代高度経済成長期韓国の世情、韓国の強権的な家父長制度と男尊女卑問題を物語から汲み取ることは出来はするけれども、日本の高度経済成長期も似たようなものだったろうし、家父長制度は未だに残っているのだろうしジェンダー問題すら手を付けられたのは最近なんじゃないのかという印象があり、この辺りだって日本でもあったしあるよなあと思えて、決して韓国独特のドメスティックな問題が物語の背後にあるととらえなくてもいいと思う。むしろやはり思春期特有のナイーヴさを描いたある意味普遍的な物語として観ておけばいい映画なんじゃないのかな。まあしかしなにしろオレ、もうすっかり年寄りなんで「思春期のナイーヴさ」ってあんまり興味無いのも確かなんだが。

とはいえ、主人公ウニを演じるパク・ジフの自然体な演技がすばらしく、それはむしろ演技とすら感じないほどだった。観ている間中、主人公ウニの側に寄り添って、さざ波の様に静かな彼女の感情の渦を観察しているような錯覚にとらわれた程だ。描かれる日常にも作り過ぎな部分は一切感じず、まるで実際に今このような事が進行しているのだとすら思わせた。こういったリリカルな感情表現とリアリティを感じさせる抑制された演出によって非凡な作品であると感じさせた。

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