■カウントダウン・シティ/ベン・H・ウィンタース
失踪した夫を捜してくれないか―元刑事のパレスは、知人女性にそう頼まれる。小惑星が地球に衝突して人類が壊滅すると予測されている日まで、あと七十七日。社会が崩壊していくなか、人ひとりを捜し出せる可能性は低い。しかし、できるだけのことをすると約束したパレスは手がかりをたどりはじめる。奇妙な店、学生たちが支配する大学、難民が流れつく海辺…捜索を始めたパレスは、混迷する終末の世界を目にする。『地上最後の刑事』に続き、世界の終わりの探偵行を描いたフィリップ・K・ディック賞受賞作!
小惑星衝突による人類滅亡が間近に迫るある日、知人女性から失踪した夫の捜索を依頼された元刑事の物語だ。世界の終りというとてつもない状況の中、失踪人捜索というある意味些末とも言える行為を遂行することのギャップがこの物語の面白さとも言える。
そんな終末的な世界で人々は何をしてるのか?というと、略奪やパニックや社会崩壊はあったりはするが、いつも通り平々凡々と日々を過ごし運命の日を待つ人々もいたりする。エリザベス・キューブラー・ロスの『死ぬ瞬間―死とその過程について』では「死を受け入れまでの5段階」が提唱されているが、終末世界は誰もが絶望とパニックに落ちているのではなく、その「死までの5段階」の様々なレイヤーにある人々が混在する、と取るのならこの小説にある人々の描写も合点がいくのだ(とか言いつつエリザベス・キューブラー・ロスの本は読んでないけどね!)。
物語の展開は背景に「小惑星衝突」というSF的な着想を持ちながらも、主人公自身は失踪人捜索という地味な仕事を淡々とこなしてゆく。しかしこのSF的背景とミステリ展開は水と油になってはいない。というのは失踪事件の原因には「世界の終り」が関与しているからであり、これにより作品はある種スリップストリーム的味わいのあるものに仕上がっている。
この作品で注目したのは主人公である元警官の達観の中にある奇妙な優しさだ。様々な困難が彼の前に待つことになるが主人公はマッチョなファイターでもなんでもなく、満身創痍になりながら青色吐息で淡々と捜査をこなしてゆく。相棒のワン公の存在も心強い。さらに主人公の妹へのセンチメンタルな思慕の念も描かれ、実にエモーショナルな物語となっている。
この作品を読んで思い出したのは村上春樹の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』だ。物語展開がまさにタイトルに呼応しているだけではなく、主人公の達観した優しさとうっすら漂うエモな雰囲気は非常に村上作品ぽくないかとオレには思えるのだ。読んだ後知ったのだがこの作品は『地上最後の刑事 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』『世界の終わりの七日間 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)』3部作の中間に位置しており、果たして世界の終りが本当にやってくるのかどうかはこの後の物語で語られることになるのだろう。
ちなみにこの作品はdragon-bossさんのブログ記事選び続ける - 不発連合式バックドロップと決断は自分のもの - 不発連合式バックドロップを読んで興味を持った。dragon-bossさんありがとうございます。