最近読んだ椎名誠

■長さ一キロのアナコンダがシッポを噛まれたら / 椎名誠 

地下生活の考察と未来都市の姿、宇宙人がエイリアンふうイカタコ系でしかもぬらぬらぐちゃぐちゃの謎、長さ一キロのアナコンダがいたら、もし服が発明されていなかったら…?世界の暑い場所、寒い場所―辺境の旅の生々しい経験に、科学ノンフィクションの知識を加えてみた!行動派作家・椎名誠が、「もし…が…だったら…」という思いつきをアレコレひねりまわして考えた、やわらか頭のくねくねSFエッセイ!

最近ちょっと長編海外小説ばかり続いたので息抜きに軽い読み物が欲しくなった。そして軽い読み物といえばなんといっても椎名誠である。まずはタイトル『長さ一キロのアナコンダがシッポを噛まれたら』。椎名さんと言えば旨い酒と旨い食いもんと辺鄙な土地への旅だが、今回は「椎名的妄想科学エッセイ」ということになっている。実はこれ、SFマガジンで連載していたコラムをまとめたもので、SF好きでありSF小説も書く椎名さんがSF小説と並び好きなジャンルである自然科学の本を読みながら妄想したアレコレをつらつらと書き連ねたエッセイ集となっている。とはいえそこは椎名さん、例によってあっちへこっちへとフラフラ話が飛び、やっぱり旨い酒と旨い食いもんと辺鄙な土地への旅の話が始まるのである。

■地球上の全人類と全アリンコの重さは同じらしい。 / 椎名誠

 地球上には約1京(1兆の1万倍)匹のアリがいるらしい。そしてその総体重は全人類の総体重にほぼ等しいらしい――。この世に生きとし生けるものは、人類からアリンコまで途方もない可能性と不思議に満ちている。ひるがえって人間とアリの本質的な違いはなんだろう? 地球の水は常に一定? 中古車にはなぜ風船が飾られるのか? 椎名誠が世界をめぐりながら考えた、自由闊達・天真爛漫なくねくね王道エッセイ集!

そしてこちらも上記『長さ一キロのアナコンダがシッポを噛まれたら』に続きSFマガジンに連載したコラムをまとめたものだ。いわば続編である。『長さ一キロ~』にも通じるが、これらSF的妄想の数々は、椎名さんの書くSF小説の源泉となるものなのだろう。そしてこれらSF的妄想は、どちらかというと古き善き時代の、いわゆるSF黎明期の自由闊達さに通じている。そういった部分で、昨今の社会問題や高度に複雑化した情報技術を扱った最新のSF作品の在り方から見るとある意味牧歌的でもある。しかし同時に、自然や宇宙に対する新鮮な驚きや興味こそが、そもそもSFを生み出した原動力だったのだということも教えてくれるのだ。とはいえ今回も自然や宇宙に対する真摯な驚きが、旨い酒と旨い食いもんと辺鄙な土地への旅の話へとグダグダと流れていくのもまた椎名さんらしい。 

■殺したい蕎麦屋椎名誠

殺したい蕎麦屋 (新潮文庫)

殺したい蕎麦屋 (新潮文庫)

 

蹴りたい蕎麦屋、というものがある。思い当たる店があるだろう? 忘れられない犬がいる。遠い記憶を辿ってみれば、人懐っこく吠えているはずだ。世界中を旅して回り、最高にうまい〈ヘンなモノ〉を食い、冷えたビールをうぐうぐと飲み、焚き火を眺めて夜を明かす。そして好きなコトも嫌いなモノも、悩まずとにかく書いているのだった――。好奇心と追憶みなぎる感情的エッセイ集!

 今作は椎名さんがあちこちの雑誌で連載・あるいは単発発表したコラムをまとめたものだ。まとめた、とは言ってもそこは椎名さん、限りなく趣味と興味が飛び回り、決して一つのテーマにまとまったものではない。でもこの雑駁さがまた椎名さんでもある。タイトルとなっている「殺したい蕎麦屋」は気取り腐ってばかりいて少しも腹の足しにならない昨今の「意識高い系」飯屋に、おっさん椎名が目を三角にさせながら物申す!といったものである。そしてこのおっさん目線が同様におっさんのオレにも大いにうなずけるのである。おっさん以外がどう思うかは知らない。だが明快さとシンプルさにこだわる椎名さんは「本質はどうなんだよッ!?」と言っている気がしてならない。

それと併せ、車雑誌に掲載していたという車関連のエッセイが興味深かった。椎名さんは普通に車は運転するが、これまでエッセイでは特に触れることが無かったからだ。そしてここでも椎名さん、日本の「ピカピカに車体を洗う文化」をあざけ笑い、本人は新品のピックアップトラックを購入早々わざとあちこちで擦り傷を付け、車体なんぞ一切洗ってやるもんかと豪語しながら乗り回しているらしい。椎名さんにとって車なんぞ単なる足で、だからこそこれまでエッセイで特別取りあげようとも思わなかったのだろう。まあ足であろうとたまには洗ってあげてもいいかとは思うが、椎名さんがハゲシク嫌うのはあの辺のチンケなプチブル趣味ということなのだ。うん、オレも分かるぞ、ハゲシク分かるぞ。