椎名誠の『旅先のオバケ』を読んだ

■旅先のオバケ/椎名誠

旅先のオバケ

「旅の多い人生だ。世界各国、日本各地。ホテルや旅館などの恵まれた寝場所だけでなく、原野やジャングルなどでも寝なければならない」(本文より)
真冬のロシアのホテルで遭遇した信じられないホラー体験、モンゴルのゲルにやってきた深夜の来訪者ラオスでカビと虫の死骸に囲まれた一夜、一瞬で身体ごと蚊に包まれるツンドラのテント生活など、旅の達人・椎名誠がこれまでに泊ってきた「宿」を振り返り、驚き・発見・恐怖・感動のエピソードをまとめたエッセイ集。
地球を股にかけた、オドロキのエピソードが満載!

この間懐古的に椎名誠のエッセイをkindleで読んだのだが、やっぱり面白くて今度は新刊を買って読んでみることにした。タイトルは『旅先のオバケ』、椎名がこれまで旅した世界中の国の宿の中でも、特に奇妙な・あるいはホラーど真ん中の体験を紹介している。オレは椎名がオレと同じような即物的なリアリストだと思っていたので、心霊体験チックなお話を披露するのはちょっと意外だった。

しかし本書でも述べられているが、この世界には理屈で説明できない「なにか」が存在しているのではないか、と椎名の感覚が訴える事があるらしいのだ。それは単純に「霊だ!」「呪いだ!」と言い切れるものではなく、なんともいえないイヤな感覚、理解不可能な体験として椎名の心の中に残ってるのらしい。オレはこれは、人間の小脳の司るより動物的な危機感覚のひとつなんではないかと思っているが、それでも、椎名の書く奇怪な体験は、やはりなんとも説明のできないものであることは確かなのだ。

本書は椎名のこうした「怪しい」体験が半分ぐらい、残り半分はトホホな宿泊体験や珍しい宿の紹介、極限状態での宿泊体験が収録されている。全部が「オバケ」な話でないが、それは「はじめに」であらかじめ断られている。とはいえ、思ったより奇怪体験が多く記されていることにびっくりした。そして、作家でもある椎名が書くと、些細な奇妙さであっても、やはり引き込ませるほど読ませるものがある。そんな部分で、従来の椎名の旅行記とは毛色の違った読み口が新鮮だった。

旅先のオバケ

旅先のオバケ