リー・スクラッチ・ペリー、進撃のスーパー・エイプ!

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リー・ペリーといえばスーパー・エイプ、スーパー・エイプといえばリー・ペリーである。何のことか分からない方もいらっしゃるかと思うが、リー・ペリー作品において最高傑作と一般的な評価がされているのが1976年にリリースされたこの『スーパー・エイプ』なのである。

実は個人的にはそれほど思い入れの無いアルバムなのではあるが、リー・ペリーを語る上で避けて通れないアルバムなのも確かだ。しかもこのスーパー・エイプ、続編も含めて様々なヴァ―ジョンが存在する。今回はこの様々なヴァージョンを紹介しながらスーパー・エイプの核心に迫ろうぢゃないか!という企画なのだが、多分まるで迫れないとは思うので悪しからず(最初から敗北宣言)。

■Super Ape /  Lee Perry & Upsetters
スーパー・エイプ

スーパー・エイプ

 

 そう、これこそがリー・ペリー最高傑作と謳われるアルバム『スーパー・エイプ』である。凶悪そうな巨大猿がもぎ倒した木を左手にぶっといガンジャを右手にジャマイカの街を蹂躙しまくっているジャケットからもう危険な匂いがプンプンするではないか。

しかし各所で絶賛されているこのアルバム、買った当初はオレにはあまりピンとこなかったのである。アルバムの完成度以前に、リー・ペリーサウンドを聴く耳がオレには出来ていなかったのだろう。「最高のダブ」という惹句からダブ・ミュージック定番のドンシャリした音造りが先鋭化したものである筈だと想像してしまったばかりに、リー・ペリーの破天荒で規格外で想定外な音に戸惑ってしまったのだ。

けれども今聴くと、「ああ、こういうことだったのか」と理解できることは理解できる。他のリー・ペリー・アルバムと比較しながら聴くとこのアルバムがどのように違い、どのような完成度の部分にあるのかぐらいは分かるのだ。しかし音楽は理解ではなく感じるものでなければならない筈だ。購入してから幾年月、もはや新鮮な驚き自体は得る事が出来きないということなのだろう。そういった部分では非常に残念な音楽体験だったと思う。

とはいえ「やはりこのアルバムは他と違うぞ」と思う面もあり、それは後述する。

■Retune of the Super Ape /  Lee Perry & Upsetters
リターン・オブ・ザ・スーパー・エイプ

リターン・オブ・ザ・スーパー・エイプ

 

 さて『スーパー・エイプ』の続編、「帰って来た猿人マン」こと『リターン・オブ・ザ・スーパー・エイプ』である。いやーそれにしてもなんなんだこの下手すぎるイラストのジャケットは!?(まあ当時のレゲエ関連のアルバム・ジャケットなんてこんなもんです)

オレが『スーパー・エイプ』にイマイチノレなかったのにはもう一つ理由があって、実は最初この『リターン~』のほうを『スーパー・エイプ』だと思い間違って買ってしまい、そのホニョホニョと力の抜けた音に「これのどこら辺が最高傑作?」と頭が謎だらけになってしまった、という経緯がある。

そんなもんだから、「まあこれはこれでアリなのかもな……」と納得しつつ、それでもリー・ペリー作品としてはやはり思い入れが乏しいのだ。いやーのっけからネガティブな感想だらけで大丈夫か今回の文章!?

■Ape-Ology / Lee Perry & Upsetters 
Ape-Ology (Bril)

Ape-Ology (Bril)

 

そして、最近リー・ペリーにはまり始めて改めて購入したアルバム『Ape-Ology』である。このアルバムは『スーパー・エイプ』と『リターン・オブ・ザ・スーパー・エイプ』をカップリングした2枚組アルバムなのだが、このアルバムの真価はカップリングのお得さだけではない。

まずCD1『スーパー・エイプ』篇だが、最初に聴くと一瞬「アレ?」と思わされる。単体の『スーパー・エイプ』と曲順が違うのだ。ただ単に曲順を違えてる訳ではない。実は一般的に流通している『スーパー・エイプ』以前に、曲目こそ同じだが曲順とミックスが違うジャマイカ盤オリジナル『Scratch The Super Ape』というアルバムが存在しており、アルバム『Ape-Ology』はこの『Scratch The Super Ape』を採用しているのである。

(Scratch The Super Ape)

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で、実はオレは、この『Scratch The Super Ape』の曲順のほうがしっくり来るのだ。そしてこの曲順のほうがより魅力的に感じるのだ。『スーパー・エイプ』の項で「ああ、こういうことだったのか」と理解できた、と書いたのはそういった理由からだ。『Scratch The Super Ape』ヴァージョンには鬱蒼とした熱気と湿気と粘り気、そして幽玄とも言える空間の広がり、緊張と弛緩の抜群のバランスを感じる事が出来る。たかが曲順と侮ることなかれ、ある意味オレが真に『スーパー・エイプ』を体験したのはまさにこのアルバムからだったのではないかとすら思う。

さらにこのCD1にはリー・ペリーのブラック・アーク期最後のセッションであり、リー・ペリーのヴォーカリストとしての初のフル・アルバムであり、さらにリー・ペリー名義の初のソロ・アロバムでもある『Roast Fish & Corn Bread』もカップリングされている。つまり『Ape-Ology』は2in1ではなく3in1のアルバムなのだ。

(Roast Fish & Corn Bread)

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これらの経緯もあってか『Roast Fish & Corn Bread』は非常にリラックスしたリー・ペリーサウンドと彼のヴォーカルとが堪能できる。精神的に相当ヤヴァイ時期だったのらしいが、不思議なぐらい伸び伸びとしているのだ。そもそもが評価の高いアルバムだが、 この作品も聴けるという意味で『Ape-Ology』はお得なアルバムなのだ。

一方CD2の『リターン・オブ・ザ・スーパー・エイプ』篇にはオリジナルの他7曲の追加曲がある。Lee Perry & The Upsetters feat Clive Hyltonの「From Creation」とその3つのダブ、さらに『Roast Fish & Corn Bread』からの別ヴァージョン曲とダブ、その他1曲。どれもレア曲だ。 

■Super Ape & Return Of The Super Ape 
Super Ape & Return Of The Super Ape

Super Ape & Return Of The Super Ape

 

こちらは未購入。タイトル通りこちらも『スーパー・エイプ』と『リターン・オブ・ザ・スーパー・エイプ』をカップリングしたものだが、『Ape-Ology』が『Roast Fish & Corn Bread』もカップリングした3in1+αアルバムだったのと違い、2作の「スーパー・エイプ」に多数のボーナス・トラックを加えた全31曲入りアルバム。CDだと相当のプレミア価格が付いているが、実はApple他各種音楽配信で聴く事が出来る。しかしカップリング・アルバムとしては『Ape-Ology』のほうが優れているんじゃないかなあ。

■The Original Super Ape 
The Original Super Ape

The Original Super Ape

 

内容は『リターン・オブ・ザ・スーパー・エイプ』にボーナス・トラック5曲が加えられたものだが、オリジナル盤CDがいわゆる「盤起こし」と呼ばれるレコード盤からの音源収録であるのと違い、こちらはマスターテープからのCD化であり、当然音質・音圧とも優れたものとなっている。『リターン~』大好きファンなら一聴の価値があるかも。ところでオレも購入してみたのだが、音質の違いはええとあのう……よく分かりませんでした……。

■Super Ape Inna Jungle / Mad Professor & Lee Perry 
Super Ape Inna Jungle

Super Ape Inna Jungle

 

未購入。1994年にペリーがマッド・プロフェッサーとコンビを組んで製作されたアルバムという事だが、ペリーの『Black Ark Experryments』のアウトテイクをジャングル/テクノダブでリミックスした作品であるらしく、『スーパー・エイプ』とは関係無さそう。また、クオリティの低い作品だという評価がある。 

■Super Ape Returns To Conquer 
Super Ape Returns To Conquer

Super Ape Returns To Conquer

 

未購入。2017年に発売されたばかりなのだが、なんとこのアルバム、あの『スーパー・エイプ』の発売40周年を記念してペリーが彼のツアー・バンドであるSubatomic Sound Systemと共にリメイクした作品であるらしい。幾つか試聴したが確かにあの『スーパー・エイプ』のトラックの数々が現代的に再演されていて面白い。また、『スーパー・エイプ』とは関係ないがペリーの代表プロデュース曲、マックス・ロメオの『War Ina Babylon』のリメイク作があるのも注目だろう。さらにトラック9では既に故人となったアリ・アップの貴重なヴォーカル参加が聴けるのでザ・スリッツ・ファンは是非。Spotifyでも全曲リスニング可。

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