寓話的な物語と深化した映像美を誇る歴史大作 / 映画『Padmaavat』

■Padmaavat (監督:サンジャイ・リーラー・バンサーリー 2018年インド映画)

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『Devdas』(2002)、『Goliyon Ki Raasleela Ram-Leela』(2013)などで悲劇的な愛を究極の美術で描くインド映画監督、サンジャイ・リーラー・バンサーリーによる新作が遂に公開された。タイトルは『Padmaavat』、前作『Bajirao Mastani』(2015)に続きまたもや豪華絢爛たる歴史絵巻を披露することになる。出演はバンサーリー映画の常連となったディーピカー・パドゥコーンとランヴィール・シン、さらにシャーヒド・カプールがバンサーリー映画初出演となる。

上映はまたしてもSpecebox Japanによる日本におけるインド映画上映会だった(英語字幕)のだが、今回はなんと3D上映があると聞き、インド映画の3D作品などそうそう観られるものではないだろうと3D上映作を観ることにした。

物語の舞台は14世紀初頭の北西インド、ラージャスターンにある王国メーワール。この国の王ラタン・シン(シャーヒド・カプール)の王妃パドマワティー/パドミニ(ディーピカー・パドゥコーン)は絶世の美女の誉れ高く、その噂はハルジー朝のスルターン、アラーウッディーン・キルジー(ランヴィール・シン)の耳にも届いていた。アラーウッディーンは兵を挙げメーワール王国に進軍、パドミニを一目見させろとラタン・シンに迫る。これを拒んだラタン・シンに狡猾で知られるアラーウッディーンはある計略を巡らすのだ。

作品は1540年にスーフィー詩人マリク・ムハンマド・ジャヤシによって書かれた叙事詩『Padmavat』を基に製作された(映画タイトルは『Padmaavat』と”a”がひとつ多い)。『Padmavat』自体は13世紀にあった史実を基にしているとも言われるが、歴史家の間では論議を呼んでいるという。

要点を挙げながら感想を書いてみよう。まずなにより今回もその美術は圧倒的なまでに荘厳かつ美麗を極め、バンサーリー監督の面目躍如となっている。前作『Bajirao Mastani』も歴史絵巻だったが、今作ではさらに地方色・民族色が濃厚で、よりエキゾチックな美術を楽しむことができる。思わず息を呑んでしまうほど驚異的な美術設計をされたシーンが幾つもあり、セルゲイ・パラジャーノフ監督作『ざくろの色』に通じる芸術映画の領域に足を踏み込んでいさえすると思う。それとは別に冒頭における森でのパドミニの鹿討ちのシーンは非常にファンタジックな味わいを見せ、コスチュームプレイのみに留まらない美術の冴えを感じさせた。

3D効果は想像以上によかった。これはバンサーリー作品がもともと箱庭的なつくりをしているせいで、室内や城郭内など奥行きの限定されたシーンが実に3D映えするのだ。さらに俳優たちを全身像で撮影することにより、彼らがあたかも目の前の舞台に立っているかの如き錯覚さえ覚えさせてくれた。これは今まで観た3D映画の中でも相当素晴らしい部類に入っているように思う。反面、3D上映の欠点である画面が薄暗く見えてしまう部分はいかんともしがたく、若干の欲求不満は感じたが、それでも「3Dインド映画初体験」という面白さのほうが勝った。

物語はどうか。「絶世の美女を巡る二つの王国の睨み合い」といったその骨子はあまりにもシンプルで、どこか寓話のようですらある。世界各地にある「絶世の美女を巡る物語」の一つの変奏曲のようにすら感じる。物語展開もそれぞれに波乱やスペクタクルもありつつ基本的に二つの国を行き来するだけといった流れであり、若干の単調さを感じた。また、凛とした貞女パドミニ、泰然たる王ラタン・シン、獰猛狡猾なるアラーウッディーンといったそれぞれのキャラはこれも寓話的で分かりやすいが逆に判で押したように定型的で破綻が無く、人物像としての膨らみや面白味には欠けるきらいがある。モノローグの多用も押しつけがましく感じた。ラストは衝撃的だが、前時代的な悪しき因習を美徳の如く持ち上げているだけのようにも見える。16世紀インドで書かれた物語だから致し方ないのか。

総体的に見るなら「バンサーリー美術の深化」と「物語性の後退」といったアンビバレントな二つの感想を持つこととなった。実の所、もともとバンサーリーは作話能力に難があり、それを素晴らしい美術で凌駕し補う形で完成させた映画の多い監督だというのがオレの意見だ(『Saawariya』などその最たるところだろう)。今作ではそれがかなり極端に現れる形となったが、物語の寓話性がそれをあまり感じさせず、結果的に非常に完成度の高い作品だということができるだろう。だが、歴史絵巻はもうこのぐらいでいいような気がするなあ。 

参考 :“Padmaavat”の基礎知識☆ロマンス小説家・吉咲志音 × Masala Press代表アンジャリ

masala-press.jp


Padmaavat | Official Trailer | Ranveer Singh | Deepika Padukone | Shahid Kapoor

 ■参考:サンジャイ・リーラー・バンサーリー監督作品レヴュー一覧