『アラン・ドロンのゾロ』と『卒業試験』はどちらも1975年に日本で公開された外国映画だ。今回の記事は、オレが中学生の頃に公開されたこの二つの映画にまつわるお話を書く。
当時のオレは北海道の田舎に住んでいたのだが、田舎ということもあって映画館でかかる映画というのはたいてい都市部で公開されてから何ヶ月も経ってから公開されることになる。ものによっては1年も経ってから公開されるものさえあった。そして、都市部で公開されても、田舎では公開されない映画も当然あった。
『アラン・ドロンのゾロ』と『卒業試験』は、オレの田舎では2本立てで公開されることになったのだが、これが都市部と同じ1975年に公開されたのかそれとも翌年ぐらいだったのかは覚えていない。ただなにしろ当時は13~14歳の中学生だったような記憶がある。
オレは子供の頃から映画が好きだったが、小学生のとき洋画を劇場で初めて観て以来洋画に目覚め、子供ながらしょっちゅう劇場通いするほどだった。そんなオレの友達も洋画好きが集まり、いつも映画の話ばかりしていた。そんなとき、『アラン・ドロンのゾロ』と『卒業試験』が同時公開で田舎の映画館にかかることを知ったのだ。そしてこの情報はオレの映画好きの友人たちの間で大きな論議を巻き起こした。
なぜか。『アラン・ドロンのゾロ』といえば当時のフランス映画のスーパースター、アラン・ドロンが出演するヒーロー映画だ。今で言うならトムクル映画の新作に近い感覚だ。これは観たい。一方、『卒業試験』は、1974年に『エマニエル夫人』が公開され、日本でも社会現象にまでなったシルヴィア・クリステルの主演する映画だった。そしてその内容というのが、ソフト・ポルノだったのである。
ソフト・ポルノということもあり、この『卒業試験』は当時のレイティングで「一般映画制限付(R指定)」になっていた。「中学生以下の鑑賞には成人保護者の同伴が必要」ということである。実のところ、この『卒業試験』には何の興味もなかった(エロに興味が無いといえば嘘になるが、『卒業試験』の予告編は、なんだか汚らしかった)。
だがしかしだ。R指定になった『卒業試験』と同時上映である以上、中学生のオレらには、『アラン・ドロンのゾロ』も観ることができない、ということになってしまうのだ。今の感覚で言うなら『劇場版ウルトラマンオーブ』に『悪魔のいけにえ』が併映なばかりに子供が見ることができない、みたいな感じだ(注:R指定のくだりは記憶が定かではないので成人指定だったかもしれない)。
確かに親同伴なら観られるのかもしれないが、そんなに物分りのいい親が当時の田舎にいるはずもないし、逆に親と一緒に映画なんか観たくもない。また、年を隠して観ることも出来ない。なぜなら映画館にしょっちゅう入り浸っているオレや友人たちは映画館のモギリのおばちゃんにすっかり顔バレ年齢バレしているのだ。こっそり見せてくれ、とお願いする度胸だってない。こうなってしまったら『アラン・ドロンのゾロ』を観るのはあきらめるしかないのか。
ところがだ。なんと、「中学生以下に『ゾロ』だけを見せてくれ」と劇場に懇願した友人がいたのである。映画館のモギリのおばちゃんにすらすっかり顔を知られているオレたちだが、それだけ顔見知りであり、モノも言いやすいということもあったのだ。そしてこの願いは、なんと、通ってしまったのだ。
それは確か、日曜日の朝一番、9時とかそのぐらいの時間だったと思う。その時間一回限り、中学生以下も観られる『ゾロ』だけの公開を、通常より若干安い料金で観られる事が決まったのだ。
オレと友人たちは、洋々として早朝の劇場に入り、『ゾロ』を観ることになった。この時、意外と客席も埋まっていたから、同じように『ゾロ』だけでも観たい、という中学生、ないしは一般の客も多かったのだろうと思う。まあ、料金が若干安かったから、というのもあるのかもしれない。
どちらにしろ、「映画が観たい」という願いが届くという、とても稀有な体験だった。昔の田舎の映画館だったから、こんな融通も利いたのだろう。もちろん採算が見合うだろうという劇場主側の見積もりもあったのだろう。でも、映画を観たいという声に同調できる劇場主側の映画愛もそこにはあったんじゃないのかな、と何の根拠も無いとても善意な解釈を、オレはちょっとしている。
※子供時代の映画館の思い出はこの辺でまとめてあるのでよろしければどうぞ。
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