オレ・シネマ・パラダイス (その3)

■さらば愛しき映画館よ

話は中学生の頃に戻ります。当時地元に映画館が二つあった話は最初に書きましたが、ある日そのうちの一つの劇場が廃館になることになったんです。実際にはそこを潰して別の場所に新しい劇場を建てるという事でした。廃館になる劇場は初めて洋画を観、それからいつも足げく通っていたあの劇場でした。また新しい劇場が建てられるとはいえ、いろいろな思い出の映画があった映画館だけにほんの少し淋しくはありました。
そして最後の上映作の公開を終わり、取り壊しの日を待つばかりになった劇場に、切符もぎりのおばちゃんの誘いでオレ等映画好きのガキどもが遊びに行く事になったんです。もう映画を上映することが無いと知っているだけで、映画館は何か別のものに変わってしまったかのように見えました。閑散とした劇場の中で、オレや友人達はそれぞれいろんな思いを抱えてぶらぶらしていたような気がします。オレはちょっと気になって、映画スクリーンのある劇場奥の壇上に上ってみました。これまで沢山の映画を映し出していたスクリーンを、間近で見てみたかったんです。今まで白い色だとばかり思っていたスクリーンは、近くで見ると、銀色でした。”銀幕”とはよく言いますが、あれは本当に銀色だから”銀幕”と呼ぶんだということを、この時初めて知りました。
その後、友人達と普段なら入れなかった場所へあちこち入ってみました。勿論映写室もです。狭くて薄暗い映写室の中を眺めていると、ここであんな映画やこんな映画のフィルムが回っていたんだなあと思えてきて、なんだか感慨深いものがありました。映画館の物置に入ると、そこにはこれまで上映された映画のポスターや看板が雑然と積み上げられていました。欲しいものがあったら持って行っていいと言われたんですが、あまりに古くてよく知らない映画のものばかりだったので、ちょっと食指が動きませんでした。しかしそれでもゴソゴソやっていたら、アラン・ドロンとジャン・ポール・ベルモントの映画『ボルサリーノ』の超特大ポスターを見つけたんですね。高さは背丈ぐらいあったような気がします。TVでしか観た事はなかったですが、好きな映画だったのでこれはありがたく頂戴しました。そしてそれを知った例の映画キチガイの友人が、激しく嫉妬してむくれかえっていたのは言うまでもありません。
ロビーに戻るとおばちゃんが丁度来ていた映写技師のオジサンを紹介してくれました。オジサンは、とても小柄な体格で、小さな顔には沢山の深い皺が刻まれていましたが、オレ等の姿を見ると人懐こそうに笑顔を見せてくれました。何か話したとは思いますがよく覚えていません。やはり大人相手だから少し縮まっちゃってたんでしょうね。
映画館はその後解体され、そして新しい映画館がちょっと離れた町に建てられましたが、新しい映画館はなんだかあまり好きになれませんでした。もう一つ残っていた映画館のほうは相変わらずよく通っていました。そこも経営が変わり、日本ヘラルドだかの直営になったようですが、都市部と合わせたロードショー公開などもしていたけど、あんまりお客さんが入らない為にどんどん元気の無い映画館になって行きました。
その後高校を卒業したオレは上京し、この映画館ともお別れする事になったんですが、実家に帰ることがあれば、特に興味のある映画がかかっていなくても映画館に足を運ぶようにしていました。やはりこの映画館に愛着があったのでしょう。でもさら何年かした後実家に帰ったときには、もう映画館は無くなってしまっていました。丁度VTRが一般家庭に普及し、レンタルビデオの店があちこちに出来始めて、そちらのほうにお客を取られた為の閉鎖だったんでしょう。でもオレなんかは、映画館が潰れるなんてホントに文化の無い田舎だよなあ、なんて思っていたりしましたが。
そんな訳でオレの映画館の思い出話はおしまいです。

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