ヨーロピアンなウェス・アンダーソン〜映画『グランド・ブダペスト・ホテル』

グランド・ブダペスト・ホテル (監督:ウェス・アンダーソン 2014年ドイツ・イギリス映画)


ウェス・アンダーソン監督作品が苦手だった。若干毛嫌いしている部分もあったかもしれない。ウェス・アンダーソンの名前を聞くと「ウェス・クレイブン?ホラーの人?」などと進んで勘違いし、存在自体を無視しようと努めていたりもした。全ての作品を観ているわけではないが、作品の出来自体はとても優れているとは思うのだが、技巧なり話法なりに、なーんかこう、鼻につくものを感じていたのだ。そもそも「鼻につく」なんて言い方は観る側の資質の問題だから、これはもう相性が悪かったとしかいいようがない。

しかし新作『グランド・ブダペスト・ホテル』の予告編を観たときには心が躍らされるものを感じた。ウェス監督が変わったのかオレの心境が変わったのかは分からないが、素直に「面白そう」と思えた。思いつつ「でもウェスだろ…」と警戒もしていたが。そしてこの映画、相方さんも観たがっていたので一緒に行こうかと考えていたが、あれこれ忙しくて結局劇場で観ることが叶わず、ソフト化してからの視聴になってしまった。そしてやっと観ることのできた作品は、これまでのウェス作品嫌いがなんだったのかと思うほど素敵な作品だった。

物語は第2次世界大戦の足音が近づく1930年代、ヨーロッパの架空の国ズブロッカ共和国が舞台。かの国にはヨーロッパ最高峰とも呼ばれる有名ホテル「グランド・ブダペスト・ホテル」が存在し、そしてここで采配を振るうコンシェルジュ、グスタヴ・H( レイフ・ファインズ)が物語の主人公となる。事件はホテルの顧客、マダム・D( ティルダ・スウィントン)が殺され、グスタヴ・Hに嫌疑が掛けられることから始まる。しかしそれはマダム・Dの息子ドミトリー( エイドリアン・ブロディ)の陰謀だったのだ。

この作品でウェス監督は相変わらずの様式美と色彩美でもって画面を覆い尽くす。これまではそれが鼻についていたのだが、この作品では素直に楽しく美しいものだと感じた。それはウェス監督の様式性と色彩感覚が、舞台となる近代ヨーロッパの、そのヨーロッパ的である部分に、非常にうまく溶け込んでいたからなのだと思えた。つまりウェス監督が作家として求めるスタイルに、舞台設定が綺麗に当てはまったのだ。ウェス監督はアメリカ・テキサス出身ではあるが、そもそもがヨーロッパ的な感性を持った監督だったのではないか。それがこの作品で水を得た魚のように開花したということではないだろうか。

もう一つこの映画を楽しめた理由には、主人公グスタヴ・Hが実直で誇り高い、ある意味古風かつストレートな性格であり、そのシンプルさが理解し易かった、という部分があった。キャラクターとして生き生きとし、魅力に満ちているのだ。さらに物語は殺人事件のサスペンスとアクションがふんだんに盛り込まれ、物語それ自体への興味が最後まで尽きない。ある時はハラハラし、ある時は拍手喝采の物語展開。素敵ではないか。これまでのウェス監督作品はどうも下手な文学臭が強く、エキセントリックな登場人物とか、いかにも作ったような物語構成に引っ掛かりを感じたが、これらが払拭されているのだ。

こんな具合に、ウェス監督に対するハードルと感じていたものが全てとっ払われ、監督自身が表現したいと思っているものと真摯に対峙できたのがよかったのだろう。それにより、オレはこの作品を存分に楽しめ、驚嘆し、美しいと感じることができた。そういった部分で、この『グランド・ブダペスト・ホテル』はオレがウェス監督の真価を発見でき、さらにその作品の素晴らしさを感じることができた傑作だった。併せて、ウェス監督の過去作品をもう一度見直してみるべきだとすら感じさせた。今年観た作品の中でも申し分のない出来の1作だろう。

http://www.youtube.com/watch?v=fV3a3Nq-viQ:movie:W620