水利権闘争を巡って描かれる二つの抑圧構造〜映画『ザ・ウォーター・ウォー』

■ザ・ウォーター・ウォー (監督:イシアル・ボジャイン 2010年スペイン/フランス/メキシコ映画


雨不足による渇水が心配されることはあるが、それでも日本は島国であるその形状も幸いして水の豊富な国だといえるだろう。だがしかし大陸に位置する国々では、グローバル企業により「水利権の独占」が行われ、「水」に関する様々な問題を引き起こしている土地もあるのだ。
「水利権の独占」と書くとピンと来ないかもしれないが、映画ファンの方ならジェームズ・ボンド映画『007/慰めの報酬』を思い出してもらうといいかもしれない。この映画でボンドが追うのはボリビアの水資源独占を狙うグローバル企業の陰謀だ。たかが水ではない。生活に必須な水の独占は、莫大な利益を生み出すのだ。これらの国では経済的な理由から、河川利用権利や水道事業をグローバル企業に譲渡するが、そこに住む住民たちには莫大な水料金が請求され、「天からの恵みである水を使うこともままならない」事態が起こっているのだという。
映画『ザ・ウォーター・ウォー』はこの「水利権の独占」を巡り、ボリビアで2000年に実際に起こった「コチャバンバ水紛争*1 *2」を元にして描かれている。ボリビアの水利権は多国間債務免除などを条件にIMFに譲渡され、水道局はグローバル企業により民営化されたが、それにより水道料金は400%の引き上げがなされた。これはボリビア市民の最低賃金月収の1/4にあたる額なのだという。その料金の法外さに、遂に暴動が起こる。政府は戒厳令を敷き、警官隊を投入するが、民衆の怒りは収まるところを知らなかった。
しかしこの映画が真にユニークなのは、ただ単に「水紛争」そのもののみをドキュメンタリー・タッチで撮った作品ではない、という部分だ。
まず、この映画の主役となるのはスペインからやってきた映画撮影クルーだ。彼らはこのボリビアの地に、かつて新大陸を発見し、植民地化したコロンブスの映画を撮影するためにやってきたのだ。彼らは現地人をエキストラに雇い、コロンブスがキリストの名の下に、当時の現地人にどれだけ悪辣な搾取と惨たらしい虐殺行為を行ってきたのかを描こうとする。しかし撮影の最中、「水紛争」の暴動が起こり、撮影は頓挫、クルーらも命の危険を感じ始めるのだ。
この映画クルーと絡むのがエキストラとして雇われた一人のボリビア人だ。彼の映画での役回りは征服者コロンブス一行と敵対する現地人族長だ。そして現実の彼は市民活動家の顔も持っており、政府と対立して「水紛争」デモを引き起こし、当局から暴行・逮捕され、要注意人物としてマークされている。このボリビア人活動家が、この映画の大きな鍵となっているのだ。
つまりこの『ウォーター・ウォー』は、「映画内で撮影されるコロンブス映画」と、「現実に起こっている「水紛争」」を平行して見せることで、「冷徹な征服者コロンブス」と「水資源独占のグローバル企業」という二つの抑圧構造を見事に重ね合わせ、水紛争のみに留まらない南アメリカにおける搾取と圧制の歴史を立体的に描き出すことに成功しているのだ。
スペイン人撮影クルーたちはいわば先進諸国の文化人ではあるが、「コロンブスが犯した大罪」を描くというリベラルさは持ち合わせているにもかかわらず、その中にはエキストラで調達したボリビア人たちを「安い賃金で働く貧しい国の劣った人々」と蔑視する者もいる。そしてデモによる撮影の中断を、単なるはた迷惑としてしか感じない。そういった先進諸国人のダブルスタンダードを描きながら、その彼らが、次第に現地人たちの窮状を知ることで、自らの傲慢さを恥じ、彼らに手を差し伸べようとする後半の展開は、一筋の光明のようにこの映画に輝きをもたらしている。

ザ・ウォーター・ウォー [DVD]

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