■わたしはロランス (監督:グザヴィエ・ドラン 2012年カナダ/フランス映画)
オレはトランスジェンダーを描いた映画というのが結構好きです。いや、かなり好きなほうなのかもしれません。『ヘドウィグ・アンド・アングリ―・インチ』や『プリシラ』みたいなキャンプなゲイを描くもの、『プルートで朝食を』や『トランスアメリカ』、『トーチソング・トリロジー』のようなゲイであることの葛藤や困難を描くもの、『蜘蛛女のキス』や『ミルク』のような社会で迫害されるゲイを描くもの、どれも映画作品としてよく出来ているうえに、きちんとトランスジェンダーの問題に取り組んだ名作でした。ただ、ホモセクシャルものだけは駄目で、『ブロークバック・マウンテン』や『ブエノスエイレス』は、申し訳ないんですけど苦手でした。
オレ自身はというと多分普通にへテロセクシャルな男なんだと思います。そんなオレがなぜトランスジェンダー映画が好きなのかというと、女になりたいとか男を愛したいということなのではなく、「"男"という約束事から解放された人々」への憧れがあるからなのだと思う。それと同時に、マイノリティーであることと必死で戦おうとする姿に尊敬を覚えるからなんだと思う。それは、バイセクシャルであろうとなかろうと、自分らしく生きたい、自分の存在を認めてもらいたい、という人として当たり前の感情が、これらの映画の中に横溢してるからなんです。
この『わたしはロランス』は、「僕は女になりたい!」と突然言い出した男と、その恋人との、10年に渡って繰り返される別れと復縁とを描いた作品です。監督は24歳にしてこれが3作目というグザヴィエ・ドラン(既に4作目も完成しているらしい)、映画の上映時間も3時間近くあるという大河ドラマみたいな野心作なんですね。
で、この映画がどうだったかというと、自分にはまるで駄目でした。
まず、主人公の「なりたいもの」がよく分かんないんです。主人公は女になりたい!といって女装しますが、女装はしていても仕草や喋り方や考え方が男のままなんですね。少なくとも女性的ではない。そしてそのパートナーとしては男性ではなく女性を選びます。つまり主人公はゲイではなくヘテロとしてヘテロのままで女装したい、ということのようなんですね。実際にもそういう女装家の方もいらっしゃるのだとは思います。しかし主人公は冒頭、「自分は女に生まれるべきだった」というようなことを言っている。なんだかちんぷんかんぷんなんですよ。ゲイとして/女性として生きたいのか、女装好きのヘテロとして女性を愛しながら生きたいのか。この辺って物語の根幹をなすことの筈なのに、描かれ方が曖昧なんです。
主人公は中盤、トランスの人たちに助けられますが、彼らは実に分り易く「トランスの人」という描かれ方をしています。そして主人公がこのトランスの人たちのコミニュティに落ち着くのかと思ったらそうでもなくて、やっぱり恋人との愛に落ち着こうとするんですね。これはトランスとしての居場所を求める映画ではなくて、ヘテロとして「愛」に収束しようとした物語だってことなんですね。そう考えると、実は単に監督が「エキセントリックな愛の形」を描きたかったためにトランスを利用しただけで、別にトランスに理解があるとかそれを主題に据えて描きたいということではなかったのではないか?と思えてしまうんですよ。
それと、国語教師だった主人公がいみじくも冒頭で「プルーストはくどい」と言った言葉そのままに、この映画、くどいんです。まず登場人物たちのバストアップ画面がこれでもかと多用され、やいのやいのと自己主張を繰り返す。物語は衝突/別れ/復縁が繰り返されているだけ。そしてその間「愛が!愛は!愛の!愛を!愛に!」と愛愛愛愛愛愛ワァワァワァワァワァやっている。感情の発露はたいてい怒鳴ること。いつでもどこでも大声出して感情を表すのって出来の悪い邦画がよくやることですね。
恋人たちを祝福するかのように空から色とりどりの洋服が山のように降ってくる、という目を見張らせるような映像効果もあるんですが、これは他のシーンで「山のように雪が降る」「山のように雨が降る」「山のように木の葉が舞い散る」と、「なんか空から降る」という同工異曲なことをやってしまってるんです。また、時折現れる、スタンダードサイズの画面を巧みに生かした、画面半分を遠景、半分を近景、といった画面構成はユニークですが、これも多用し過ぎ。つまり、そこここで光るものがあるにも関わらず、3時間余りという長丁場のため、それを繰り返す形になり、結果的にくどくなってしまっている。
多分監督は、まず「10年に渡るトランスジェンダーと恋人との別れと復縁の物語を3時間の長丁場でやる」という枠組みを作って、そこに押し込む形で物語を作ってしまったんじゃないのかと思うんですね。枠組みありきの物語ですから、長いと知らずに繰り返しになってしまった、と、そういうことなんじゃないのかと想像しちゃうんですね。う〜ん、これ、若さゆえの溢れる野心が逆効果になっちゃったってことなんじゃないのかな。それと愛云々についてワァワァやりたがるのって、若いからなんだねえ、と感じちゃいました。